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2008.02.29 (Fri)

さようなら、と僕らは言った  Chapter4-1 

  
                               『天元突破グレンラガン』

【More・・・】

    
 テントを出ると、風が吹いていた。涼しい風。夕闇の風。
 高台になった場所へ吹き上げる風に、前髪が揺らめいた。それを押さえようと軽く上げただけの右肩に、慣れようとしても慣れない痛みが走る。
(まだ、痛いのか)
 まるで人ごとのように、ロシウは自分の右手を見た。そのまま頬に手の平を押しあてると、指先には籠もったような熱がある。ついたため息すら震えるようだ。
 見上げた空は藍が深かった。ほの赤い残光は消え失せて、ゆっくりと動き回るガンメンの機影が呑みこまれる薄闇の彼方、東の空。ぽてりと赤く、大きな月が昇り始めている。昨日満月だったその姿を、今日も変わらずに夜空に浮かべようというのだろう。
      夜が、やって来る。
 人間たちが眠り、獣人たちが眠る夜が。今までと同じように始まり、今までと同じように終わるために。
「同じように見えて、実は違うのよ。毎日毎日、少しずつ変わっているの」
 そう教えてくれたのは、リーロンだった。
 地上の夜を過ごすうち、気付けば形を変えていく月が不思議だった。赤くて、白くて、大きくて、丸くて、小さくて、尖って。何も変わらないように見える星空の中、ひとつだけめまぐるしく姿を変えていく。
 そう言うと「それもはずれ」とラガンに端末を繋いでいたリーロンは笑った。
「星も月も、みんな同じ。毎日少しづつ、じっと見ていてもわからないくらいに変化しているの。ただそれがあまりにゆっくりだから、アタシたちが上手く見つけられないだけなのよ」
「じゃあ、どうして変わっていくってわかったんですか?」
「それはね」と、リーロンも夜空を見上げていた。「昔の誰かが、あんたみたいに空を見上げて『不思議だな』って思ったってことなのよ。だから今、アタシたちは知っているの。月も星も空も、ひとつとして変わらないものがないってことをね」
 でも、と再びリーロンは目を端末に落とした。
「すぐにそんなことをアタシたちは忘れるわ。慣れてしまうのよ。いつも夜には月と星があって、また朝が来る。朝が来れば、夜のことなど忘れてしまう。やることはたくさんあるからね。今にあんたも慣れて、気もしなくなるでしょうよ」
「そういうものでしょうか」
「そういうものよ」
 リーロンは今度こそ笑って、ほらと手を振った。その先にはカミナとシモンが二人、ならんで毛布にくるまっている。聞こえる寝息からして熟睡だ。
「あの子たちも最初の頃だけよ、やかましかったのは。月だ!星だ!夜だ!雲だ!太陽だ!って。今じゃあ昼間動きすぎるのね、夕飯食べたらすぐあれよ」
 笑うリーロンの顔を、小さなディスプレイが仰ぎ照らしている。まるで、その光こそが多忙の地上の光、そのものであるように。
 ロシウは再び端末を叩き出したリーロンの側に座ってその夜を過ごした。見上げた空に点々とする星は、月は、リーロンの言葉を聞いてもただそこにあり続けた。動いていると聞かされても尚、まるで未来永劫何も変わらないように、ただそこに。
 けれどそれからすぐ、リーロンが言うように、ロシウは月が満ち月が欠けることも星が動かないでいることも、気にもしなくなった。というよりも、夜空を見上げている暇が無くなったというべきだった。
 野宿をする生活から、戦艦という屋内の生活へ。と同時に毎日の襲撃に備える休息を求め、眠るだけの夜が長くなった。ロシウは月にも星にも、興味を失った。空の姿、それ自体を見上げなくなった。それらはただ毎日毎日、いずれ変わらずそこにあるものに過ぎなかった     あの時までは。
 腰に重さがある。
 ヨーコからもらったホルスターは大きくて、そのままでは胴回りに合わなかった。無理に穴を開けてもらってきつく締めて、それでやっとベルトの上に留まった。
 濃い黒の色は痩せた身体を際立たせる。あまりの細さに自分でも嫌になって、上から着ているシャツの裾をかぶせた。それでもその下で、自然とホルスターはずり下がる。一歩一歩、歩くたびに腰骨に当たる銃は存在を主張しているのだ。初めて手にした重みが常にここにあるのだと。
「あんまり気にするんじゃねえよ」
 腰に当たるのをどうにかずらそうと手を掛けていると、後ろから軽く背中を叩かれた。
 なんとなく気恥ずかしい思いで振り向くと、キタンが立っていた。まだ不機嫌を引きずっているかのように渋い顔をしながら「ほら」と膝を付くようにしてかがみ込む。
「貸してみな」
 キタンはホルスターをつかみあげた。目の前で揺れる金の髪の向こう、キタンの後ろを通り抜けようとしたゾーシィが足を止めた。口の端の煙草が曲がる。
「やっぱりでかすぎんじゃねえの?」
「しゃあねえだろ。急場しのぎだ」
 よ、と言いざまキタンはベルトをもう一度、強く締め直した。
「第一、こいつに合うホルスターなんてあるわけねえさ」
「それもそうか」
 ふむん、とゾーシィは頷いた。そのまま歩き出そうとする身体がまた戻ってキタンの頭越し、手が伸びた。その手はわしゃっと一度、ロシウの髪をかき回す。じゃ、と言った時にはもう手は離れていった。
「行ってくるわ」
 一瞬、なんて言えばいいか声が出なかった。出さずにいた声が喉の奥に留まって言葉にならない。その数瞬のうちに丸まった背中が遠ざかる。
「行…ってらっしゃい!」
 やっと出せた声は勢いのまま。軽く手を振り行く後ろ姿を見送ると、バリンボーとジョーガンもそのゾーシィに続くように、手を振ってくる。
「おう、行ってくるぞ!」「おまえも気をつけろよ!」
「はい!」
 今度は迷うことなく返事が返せた。ガンメンチームはガンメン溜まりへ。レイテたち整備チームはとうにテントを出ている。
 彼らガンメン乗りは酷使された機体の調整が出来るわけでも、修理が出来るわけでもない。それでもじっと話を聞いているよりはガンメンの側にいたいのかもしれない。
 よし、とキタンが立ち上がった。
「これでいいだろ。まあ、あんまり気にするな。歩けなくなっちまうぞ。銃は重いんだ、多少落ちても気にすんな」
「はい、ありがとうございます」
 また少し、ホルスターはシャツの下でずり下がった。腰に食い込む重みが消えることはないのだろう。
 キタンは「ああ」とぶっきら棒に言って、少し口をひん曲げた。そのまま行くのかと思えば、何か言いたそうに靴の先が動いた。




  「さようなら、と僕らは言った」 Chapter4-2 へ続く
 

テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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