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2008.03.23 (Sun)

24/7 Twenty-four Seven-years 

                                       『天元突破グレンラガン』

【More・・・】

 



 案の定、総司令官執務室は空だった。
 そうだろうなと予測していたから、ロシウは特に驚かなかった。大きな背もたれの椅子、紙の上に放り出されたペンが薄く影を作っている。
 無人の部屋はいつになく静かだ。
 そのままロシウは机の上、隙間を見つけて持ち込んだ書類束を置く。姿を消すのを見越してか、処理済の書類はいつもよりは多い気がした。
「黙って出掛けなくても、良さそうなものなのに」
 やれやれと、ロシウは処理済の書類束を揃え持つ。
 もともとスケジュールを決める時にどうするか、前もって伺いをたてている。毎年のことだから、こちらにだって用意をする準備はあるのだ。
 けれどシモンは毎年同じ答えを返してくる。
(別にいいよ。いつもと同じで)
 そう言いながら、シモンは毎年姿を消した。以前はグレンラガンに一人乗って、グレンラガンを禁じられてからは一人ガンスピナーに乗って。本人は短い時間だから、と予定として決めたくない気持ちがあるらしい。
 ロシウとしてはそれも含めて訊いているつもりなのだが、どうもそればかりは噛み合わない。たとえ短時間でも不在は不在だ。だから調整として、予定を緩めに組むようにした。それがここ数年間の不文律。
 書類束を手に持ったまま、ロシウは主のいない机の端に腰掛けた。
 シモンが居なければ、ニアもやって来ないだろう。
 そもそも執務室に入るのはロシウか、政府要人くらいなもので、そう簡単に身体の空く人々ではない。
 ただそうして座っていると、本当に静かだった。ロシウはぼんやりと窓を見上げた。自分の執務室に戻る前に、一息ついていくのも悪くないだろう。
 大きく取った窓ガラス。強度計算は充分に、支える桟は最小限に。
 まるで、大空の下にいるように。
 見える空は、本当に広い。青く晴れた空、さえぎるものなく一色に晴れ渡る。まるで     彼の人のように。
「カミナ、さん」
 ついと言葉が口から出た。
 言ってしまってから、無性に懐かしさが胸にあふれた。理由なんかなんでもいい。そんなものは後付だ。
「あなたが死んで、今日で7年たちました」
      7年。
 そう、もう7年もたった。まるで駆け抜ける年月。彼の人が引っ張ってくれるはずだった歳月は、シモンという別の導き手に受け継がれて過ぎ去った。
 良く晴れた空はあの日に重ならない。皆の心を代弁するように泣き崩れ、降りやむことなかった雨の日は、もう随分と昔の話だ。随分と、昔の、
「そう言い切れるようになったのだろうか……」
 呟きに応える者はない。
 今日で7年。初期の混乱が収まりきらなかった2年、体制を整えるのに躍起になった3年、運用が転がりだしたこの2年。
 まだ何もかもが始まったばかり。次から次へともたらされる出来事に追いまくられて、一息つく間もなく過ごした日々。
 彼の人を思わない日はなかったけれど、利用しない日もなかった気がする。
 この街の名はカミナシティ。
 彼の人の名前を冠した街。街を歩けば英雄たちの姿があふれ、耳に聞こえる流行の歌は彼らをたたえている。
 ただ戦うだけだった道行きの節目節目は、今や市民の記念日だ。催される式典で市民が見つめる英雄の片割れは、確かに求心力を持っている。
「この街の人は皆、カミナさんとシモンさんのことが大好きなんですよ。7年たった今の方が有名になるなんて、まさか思わなかったでしょう? まだまだカミナさんの力を借りなければ、僕らはやっていけないんです。……笑いますか?」
 今ここから足を一歩踏み出せば、眼下にあるのは彼の人の像。いくら派手好きだったあの人でも、そんな姿でいつまでも残るとは思わなかったに違いないのに。
「しがみつくのはたやすいが、未練が残るは意地汚ねえ」
 生きて側にいて、そうしたら何て言っただろう。自分の姿を誇らしげに見上げただろうか。むしろ苦笑いしそうな気がした。きっと建てること自体を喜ばなかったろう。
「ぱっと咲けるものならば、散り落ち消えるも一興よ」
「……言うじゃないか、ロシウ」
「!!」
 息が止まるとはこの事だ。心臓が跳ね上がって、おまけに身体も跳ね上がる。
「な…! …な」
 机から飛び退いた拍子、手に持っていた書類を放り投げてしまった。ばらばらと紙舞うその中に、総司令官はのほほんと机に顎を載せている。
「なんでいるんですかっ!?」
 いや、とシモンはどっこいしょと椅子によじ登る。
「なんでって言われても。ここ、俺の執務室」
「いや、そうじゃなくて! いや、そうじゃなくてじゃなくて、なんなんですか、あなたは! カミナさんのお墓参りに行ったんじゃないんですか!?」
「今年はまだ、これから。ニアを連れていこうと思ったんだけどさ、ちょっと用事を済ませてから来るって言うから時間あわせ」
「だったらちゃんと座ってればいいじゃないですか!! なんで机の下なんかにいるんですか!」
「眠たかったから!」
 きっぱり。言い切ったシモンは、ぐううと椅子の中で身体を伸ばしてそっくりかえる。
「今日はもう、いつもより早く来て頑張ったんだぜ。あんなに早起きしたのなんか、久し振りだよ。なのにさ」
 シモンは目の前に落ちた書類をぴらりとかざす。
「そうした人の努力の結晶を放り出してくれる訳だ」
 ぱしっとロシウはその書類をむしり取る。
「たまに働いたからってそんなに威張らないでください! 常日頃からそういう心掛けでいてくだされば、早出なんてしなくても仕事は終わります!」
 あーあ、とシモンはため息をつく。つまらなそうにつく頬杖が腹立たしい。
「そう言うと思ったからこっそり早く来たんじゃないか。で、早起きしたから眠くてさ、ちょっと横になってたの。そしたらロシウが来たから、こりゃあやばい仕事させられるーと」
「だからなんでそこで隠れるんですか、よりによって!」
「隠れてたんじゃないよ、寝てただけ」
 シモンはにやりと笑う。「単に、出るに出られなくなっただけなのだよ、ロシウ君」
「だったら最後まで出てこなきゃいいじゃありませんか!!」
 いやあ、とシモンは後ろ頭に両手を回し、にんまりとロシウを眺め渡す。ぼぼっとロシウは顔がさっきから熱い。超絶熱い。背中を変な汗が出る。
「あんまり兄貴っぽい台詞だったからさー。つい、懐かしくて」
「心にも思ってないことを言わないで下さい!」
「いやー、意外だ。ロシウ君がそんな啖呵を切れるとは」
「にやにやしながら言わないで下さい、気持ち悪い」
「あ、ひどい。気持ち悪いって傷付くなあ。俺は懐かしかっただけなのにさ。……本当、兄貴が言いそうな台詞だよね」
 すん、とロシウは憑き物が落ちたみたいに恥ずかしさが薄れた。まだ顔は熱いけれど。
「……そうでしたか?」
「うん」
 シモンは笑った。今度は屈託のない感じで。
「なんか、懐かしい気がした。いつもああ言ってさ、俺達に発破かけてたなあって思い出す。無茶ばかり言ってるように見えて、兄貴は本当のことしか言わなかった。……だから、兄貴を思いだしたよ……」
 最後はまるで、心の内に呟くように。そんなシモンに声をかけかねて、ロシウはそのままの姿勢で立ちつくした。
 総司令、と口を開きかけたその時、チャイムが鳴った。
「シモン? お待たせ」
「ニア!!」
 さっきまでの憂い顔は何のその、姿を一目見るなりシモンはぱっと顔を輝かせて立ち上がった。ぐらりと重くはない椅子が後ろへ流れていく。
「遅かったじゃないか。待ちくたびれたよ」
「ごめんなさいね。わたしも早く会いたかったわ」
 戸口にすっ飛んでいく後ろ姿。
 やっと書類を集めることをロシウが思い出し、ため息ついてかがんだ頭の向こうで、まるで千年の恋人のような甘ったるい会話が続く。
 あら、とニアの声が向いた。
「ロシウ、どうしたの? シモンが落としたのかしら?」
「違う違う」
 にやにや笑いを隠さずにシモンが首を振る。「ロシウが自分で落としたの。それがさ、ニア」
「いいから出掛けたらどうです、総司令」
 ロシウは両手に書類を持ったまま、そのシモンを睨み付ける。この勢いで言いふらされて堪るものか。
「ニアさんを連れて行くんでしょう? 早くしないと日が暮れますよ。早く帰ってこないと」
 手の書類を、机の上に叩きつける。「いつまでたっても終わりませんからね」
 へええ、とシモンはわざとらしく腕を組む。
「そんなこと言っていいのかなー、ロシウ君? 俺の口は軽いよ?」
「……脅してるつもりですか、それは?」
「さあねえ」
 シモンはにんまり笑い、そうだ、とわざとらしく続けた。
「今日の決裁書類はもう大部分済んでるんじゃないのかなあ? ばらまかれちゃったからわからないかも知れないけど。ねえ、ロシウ君?」
 時計はまどろむ午後の半ば。休みをねだるシモンの笑顔に邪気がない、ないように見えるのが曲者だ。
 ロシウはため息をついた。
「……明日は、覚悟して下さいよ」
 ふふん、とシモンは笑う。
「なに、優秀な補佐官殿は頼りになるからね」
 じゃ、とシモンはニアの手を取った。
「後は、よろしく」
 行って来ます、とシモンは片手をかざして。ニアは少し戸惑った顔をして、それでも行って来ますと手を振った。まるで鼻歌でも飛び出しそうなシモンを先に、二人が出て行く。
 扉の稼働音を最後、再び執務室は静まった。
「……まったく」
 ロシウは両手に書類を抱えたまま、再び机に腰掛けた。肩が大きく揺れるくらい、腹の底からのため息をつく。
「油断も隙もあったもんじゃない」
 言いながら、自分でもちょっと笑えた。今更ながら、恥ずかしさに顔がまた赤くなるのがわかる気がした。
 まさかあんな啖呵が自分の口から出るとは思わなかったし、まさかそれをシモンが聞いて、まして懐かしがるなんて論外だ。
 ロシウは前髪を跳ね上げた。再び見上げる窓は大きい。まるで空の下に居るように。
 何を思っていたのだろう。何を憂えていたのだろう。
 7年がたった。
 不安を突き詰めて考える暇すらなく、駆け抜けてきた毎日。今日は瞬く間に明日になって、明日は瞬く間に昨日になる。立ち止まることも許されず、ただただ今日を過ごした月日。
 それでも。
「カミナさん」
 今度は正真正銘、ロシウは空に向かって呼びかける。懐かしかった。ただ名前を呼べることが嬉しかった。
      僕らはこんなにも笑えるようになりました。
「もう7年もたったんですよ」
 遠い空。青い空。彼の人のように一色に。


  終




 

テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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