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2009.05.30 (Sat)

Fly highly Chapter7 

                                       『天元突破グレンラガン』



【More・・・】




 ぱらり、と何かが顔の横をかすめていく。補強板のない天井から土塊が小さく、剥がれて落ちた。
「おまえら、止めろ!」
 削り出す音が止む。なんだよ?と問われる声もあってこそ、ゆるりとそれはやって来た。
 ぐううと唸りが襲ってくる。上から、下から、右から、左から。倒れねえように踏みしめた足が、根っこからさらわれそうになる。ふくらはぎが浮き上がる。
「ひえぇぁああ、助けて!」
「カミナ!」
「じ、じし、地震!! 死ぬ!」
「うわぁあ! うわああああぁああ!」
 地面を踏みしめる。揺れている。揺れている。でもたぶん、もうおさまる。おさまるはずだ。崩れることがある訳ねえ! 揺れるんじゃねえよ!
 押さえつける壁と天井。指の隙間から柔らかい土層がこぼれていく。視界がぶれる、背筋が冷える。こんなのは、ある訳ねえ! あるはずがねえんだ!
「うるせえぞ、おまえら! こんなのは、おら! もう静まるッ!」
 ヤツらは頭を抱えてうずくまっている。その腕の隙間から見上げる顔、顔、顔。すう、と俺は息を吸いこんだ。天井に向かって声を張り上げる。
「俺たちの行く手を邪魔すんじゃねえよ!」
 来た時と同じように、ゆるゆると唸りは去っていく。最後にぱらりと、再び土塊を落として。
「……終わった、のか?」
「アニキ!?」
 俺はものも言わずにランタンをひっさげて来た道を戻った。どれくらい戻った、そう考えるより先に、答えは見つかった。ふさがっていた。土が雪崩れていた。来た道はなくなっていた。
 戻ることは、もう     出来ない。
「は」
 光が、揺れる。
 定まらないその輪の中で、中途半端な声が飛び出した。俺はランタンを下げた腕を押さえる。静まれ。静まれ。光の揺れが大きくなっただけだった。
 それでも俺は、根が生えたように動かない足をなんとか動かす。あいつらの所へ戻らきゃならねえ。地面に置いたランタンを囲み照らされたその顔に、一様に硬い恐れを張り付かせたあいつらの所に。
「……待たせたな」
 あの、と問いかける声は震えていた。
「あっちはどうだったんですか? まさか……」
「その、まさかさ。ふさがってやがる」
 ひッと喉を引きつらせる声。ああ、と頭を抱える声。俺はランタンをひとつ、消した。弱くなった明かりの中、シモンはじっと天井を見つめていた。手に持ったドリルが小刻みに震えていた。
「どうするんですか、アニキぃ!」
 すがる手を、俺はつかむ。襟首をつかみ上げると、その近付いた目の中に俺の顔が見えた。
 にいっと、その映りこんだ俺は笑う。
「慌てんじゃねえよ。これしきの厄介事で浮き足立って、え? どうするよ?」
 もう手は震えない。大丈夫だ。まだ俺はやっていける。笑ってやれる。
「でも……、でも……アニキぃ」
 腕を放すと、そのままそいつは後ずさって尻餅をついた。
「道はひとつだ、変わらねえ。掘り続ける、そう決めただろう。だったらやることはひとつッきりしかありゃしねえのさ。用意はいいか、野郎どもっ! これからがグレン団の真骨頂よ! ドリルを突き立て掘り進め! 前に前に進むんだ!」
 よろよろと、あいつらはドリルを手に取った。シモンも再び岩盤に向かって掘り始め、それから     どれくらいの時間が経っただろう。
 どれだけ掘っても、掻き出しても、見える景色は同じだった。見えるのは土の壁、現れるのは土の壁。
 俺は額をぬぐった。
 じわりと浮き出した汗は作業によるのか、違うのか。土にふさがれた場所はここから遠い。なのに閉ざされた空気が少しずつ澱みを増していくのがわかる気がした。自分の吐く息の音が、さっきから荒く耳について離れない。
 激しい息苦しさを、俺は押し殺す。もしかしたら、という迷いが、ゆるゆると俺の喉元を締め上げ始める。
 確かに来た道はふさがっていた。けれどもし、ふさがっていたのがあの場所だけだったら? 少し掘ればまた坑道は復活して、すぐ村に戻れるようになっていたとしたら?
 先に進むことしか考えてなかった。後戻りなんて死んでも嫌だ。でも、と迷いは恐れとなって喉をふさぐ。本当にこのまま、俺たちは死んじまうのか?
 ドリルがひとつ、目の前に転がった。
「どうしたよ、おい」
「ダメだ……」
 ぎくりとした。
 迷いを見透かされたような気がした。振り返ったそいつは泣きそうに顔を歪めている。俺も、あんな顔をしているのか。
「ダメだよ、アニキ! どれだけ掘ったって出口はない!俺たちはここで埋もれてそのまま死ぬんだ!」
「……諦めるなよ、おまえら」
 俺はドリルを拾い上げた。
 ハンドルまで土にまみれながら、その刃先は鈍い色を放っている。あんなに嫌だと思っていた穴掘り作業が、今となっては命綱だ。土の壁を掘りながらその実、俺たちは俺たち自身を掘り出そうとしている。
 なかなか皮肉が効いてるじゃねえか?
「掘って掘って掘り抜ける。飛び出す出口は地上の入口に他ならねえ。俺たちはそうするって決めただろう。こんな腐った空気じゃねえ、地上のきれいな空気を吸って、さすがはグレン団の団員よと、誰でもない、自分自身に胸を張ろうと決めたんだ!」
 虚勢を張ったら、張り通せ。くくった腹なら笑ってやれ。たとえこれが最期になっても笑い飛ばして切り抜けろ!
「戻る道なんて最初からなかったことを思い出せ」
 ハンドルの固さにしがみつくように握り締めて、俺はドリルの先端を岩盤に突き立てた。
「掘り続ければ必ず地上に道は続く。続くんだ! こんな所で埋もれる気なんか、俺はしねえ。いっさいしねえ! おまえらだってそうだろう? 俺は掘るぜ。前に進むんだよ! それだけなんだよ、初めから!」
 がつ、と俺のドリルの横にもうひとつ、ドリルの先端が食いこんだ。見下ろすと、シモンが探るように岩盤を砕いていた。
「……シモン」
 シモンはただ、小さく頷いた。ドリルが回転する。シモンは俺に、というよりも、岩盤に向かって頷いたように見えた。俺も慣れない手つきでドリルを回す。
 しばらく二人で並んで、ただ黙って手を動かした。
 穴掘りなんて、まともにやったことがねえ。俺にはドリルは重い。ぎこちない手つきで回転させても、普段扱い慣れてないから、掘れる量なんてたかが知れている。
 けれどシモンのドリルは堅実だ。回転数が落ちることも、その先端が揺らぐこともないようだった。ぼろぼろと足下に落ちる土の量は一定で、少しずつ少しずつ、土を掘り進めていく。
 悔しい、と俺は思った。
 悔しくねえ、と俺は思った。
 金具が鳴る音がして、振り返るとあいつらがそこに立っていた。手には再びドリルを持っている。
「アニキ、代わるよ」
 おう、と俺は言って場所を空けた。
 がつがつと岩盤を砕きに入るあいつらを、シモンはちらとも見ない。向き合う岩盤から目をそらさないその背中を、俺は見つめた。







Fly highly Chapter8 へ続く

テーマ : 小説 - ジャンル : 小説・文学

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