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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter4 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】




 聞き覚えのあるうめき声がする。苦しげな、波立つ声が。産屋は遠い。それなのに、とザファンは思う。どうしてこんなにはっきり耳に届くのだろう。
 地下の狭い坑道を、苦しみを乗せた風が縦横無尽に跳ね返り、うっすらとこの家の中まで声を運ぶ。
「産まれたのかしら? ねえ、産まれたのかしら?」
 目だけをぎらぎらと大きくして、ユウネはつぶやく。寝床にぺたり、尻をつけて座りながら。
 わからない、とザファンは答えた。
 ユウネは痩せている。もともと村人の中でも細かった身体が、身籠もってからというもの、なお痩せた。今では身籠もる腹ばかりが大きく見える。
 なのにまだ、ユウネには産まれる気配すらないのだ。
 ふと、ひときわ大きく声が響いた。ユウネはびくりと肩を揺らして戸口を見る。
「ザファン」
 ユウネは戸口を見つめたままだ。
「お願いよ、ザファン、あれを」
 止めて、とユウネが続けるその前に、新たな声が加わった。ザファンはうっそりと戸口を見る。
 なぜ聞こえるのだ。こんなにも離れているというのに。どうして聞かせるのだ、元気な赤ん坊の声を。
 いや、とユウネはゆるゆると首を揺らす。いやよ、とまた、ぼんやりとつぶやいた。
「こんなのは、いや。シーラの子供が産まれるなんて」
「……ユウネ」
 ザファンはそっと、自らの腹を抱き締める妻の耳をふさいだ。岩のように冷えた耳と髪。暴力的なほどに襲ってくる声から、守ってやれたらいいのに。
「横になりなさい。ユウネ。身体にさわる」
 そのまま抱えこむように抱き締めてやると、ユウネは胸にすり寄った。震える息を落とす背中を、何度も何度も撫でてやる。
「眠りなさい。このまま眠ってしまうんだ」
 繰り返し名前を呼ぶうちに、ユウネのこわばった身体から力が抜けていくのがわかった。ねえ、と呼びかける声がした。
「どうしたらいいのかしら? シーラの子供が産まれたわ。わたしの赤ちゃんはどうなるのかしらね? シーラの子供が……わたしの、赤ちゃん……」
 最後の問いかけは眠りの中に落ちていく。
 尖った背に回した腕に力をこめてさらに引き寄せた。このまま眠り続けてしまえばいいのに、と思いながら。そうすれば案じることも辛いことも、……何かを願うことも、きっとないから。
 ザファンはユウネの頭を肩口に押しつけた。
 脳裏に浮かぶのは白い小さな姿。かつて見た、赤ん坊のイドマ。まだ見ぬシーラとキーナイの子供。そしてこれから産まれるはずの自分たちの……。
 胸元で繰り返される規則正しいユウネの息を聞きながら、ザファンは目を閉じる。閉じた暗闇にランプの残像が揺らめいた。
 わからないよ、とザファンは答えた。ユウネは眠っている。


Notice it Chapter5 へ続く
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