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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter6 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】


 マギンが駆けつけた時、すべては終わっていた。
 産屋の前の壁に寄りかかり、ザファンはしゃがみこんでいた。両腕で頭を抱えて、まるで消えてしまいたいように身体を縮こまらせて。
「ザファン!」
 駆け寄ったマギンが肩を乱暴に揺する。ザファンは顔を上げた。涙を流すその顔は、泥で汚れている。
「……マギンさ、ま…」
 名前をつぶやくのもやっとだった。ザファンは再び顔を歪めた。涙があふれて、皺だらけになった頬を伝う。ユウネが、と彼は言った。
「ユウネが…、なぜ……どうして、ユウネがぁ!」
 マギンはものも言わず、ザファンの頭を胸に抱いた。
「もういい、ザファン。もう充分だ」
 ザファンの腕が、マギンの背に回される。くぐもった泣き声が鈍く坑道にこだまする。
 マギンを追いかけて来たロシウはただ、その後ろで息を殺して立ち尽くした。その耳に、産屋の中から弱々しい泣き声が届く。
 マギンは泣き続けるザファンの背をゆっくりと撫でている。その背後を、ロシウはゆっくりと進んだ。息を殺したまま、足音を忍ばせて。覗きこんだ産屋の中に弱々しい泣き声を求めて。
 始めに見えたのはしぼられた灯り。次に見えたのは、その中で震える見覚えのある丸い後ろ姿だった。タラだった。タラは泣いていた。両腕を突っ張らせ、その脇から白い小さな足が見えていた。
「……赤ちゃんは、無事なのですね」
 声をかけると、タラの肩が跳ね上がった。振り返った彼女は腕に赤ん坊を抱いていた。赤ん坊は弱々しく泣き声をあげている。
「ロシウ様! なぜこんな所まで」
「声が聞こえて……それで」
 言いながら急に、ロシウは恐ろしくなる。
 なぜ恐ろしく感じたのかはわからない。答えを求めて、またたくランプの光の中を自然に目が行き来する。そしてロシウは答えを見つける。タラの向こう、寝台の上に。
「ロシウ様」
 タラはゆっくりと、赤ん坊を抱いたまま立ち上がった。
「どうぞ、抱いてやって下さい。可哀想な子供です」
 ロシウは身体がこわばって動けなかった。
 タラが近寄ってくる。寝台の上が広く見える。その上に乗っている上掛けを掛けられたユウネの足は、ぴくりとも動かない。どうして動かないのだろう……あれでは、あれではまるで。
「産まれた瞬間に、この子は母を亡くしました。どうぞ抱いてやって下さいまし、ロシウ様。カオガミ様の祝福をこの子に!」
 タラは丸裸の赤ん坊をロシウに向けて差し出す。見開いたその目から涙が一滴、落ちていったのをロシウは見た。
「私が抱こう」
 いつの間に入ってきたのか、マギンはロシウの肩に手を置いた。それでやっと、ロシウは身体の自由を取り戻す。マギンに押されるままロシウは後ずさった……タラの目の前から。
 マギンは赤ん坊を受け取ると、そっと左右に揺すった。むずがるような弱々しい泣き声は、ついぞやみそうになかったけれど。
「立派な男の子だ。ユウネは、立派な赤ん坊を産んだじゃないか。……元気に育ちなさい」
 その瞬間、タラが泣き崩れた。
 床に突っ伏し、声をあげてタラは泣いている。節ばった指が、床の土をひっかいた。ロシウは息をするのも忘れたように、タラを見下ろす。悲しみそのもののような、その姿を。
 ふと気付けば、赤ん坊を抱いたマギンがロシウを見ていた。我に返り、ロシウはすぐに背をただす。首を垂れて、そのまま踵を返した。
 わかってらしたのだ、と気が付いた。
 だからマギンはロシウについてくることを禁じたのだ。それでもただならぬ様子にじっとしていられなくて、着いてきてしまったのはロシウ自身だ。
 産屋を出ると、そこにまだザファンは座りこんでいた。もう泣いてはいなかった。ただ呆然と、腕と足とを投げ出している。
 かける言葉など、あろうはずもない。ロシウはそのまま通り過ぎようと足を早めた。
「ロシウ様」
 けれど縄で捕まえられたように、ザファンの声はロシウを引き留める。向き直ると、色のない瞳とかち合った。
「赤ん坊は元気でしょうか……?」
 ロシウは目をそらすことが出来ぬまま、ザファンの側へ戻った。投げ出された手を取る。
 可哀想で、ならなかった。
「赤ちゃんは元気ですよ。今は司祭様が抱いてらっしゃいます。元気な赤ちゃんですね」
「……はい」
 ザファンは頷いた。するりと涙がまた、流れていく。その目がゆうるりと下に降りた。
「僕はもう、行かなければ……」
 ロシウがここにいること自体を、きっとマギンは望まない。ザファンの手を握っている手をゆっくりと、ロシウは引き抜く。名残惜しい気分で立ち上がった。
 このままザファンを一人、残していくのは気掛かりだった。けれどここに残っても何にもならない。それだけはわかっていた。
 ロシウにもわかることは、もうひとつある。これで儀式を行う必要がなくなった、ということだ。
 ユウネは死んだ。子供が産まれた。
 再び村人の数は五〇人に戻った。五一人目を数えるまでに、またしばらく時を置くことが出来るだろう。
 うなだれたザファンにもう一度頭を下げて、そしてロシウは歩き出す。少し歩いて振り返ると、ザファンはじっとロシウを見つめていた。
 もう一度、ロシウは頭を下げた。
 坑道を上っていくその間、ずっとその視線が追いかけてくるような気がした。


Notice it Chapter7 へ続く
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