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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter8 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】


「行って、しまわれたかい?」
 掛けられた声に、戸口をぼんやりと眺めていたザファンは振り返った。奥からタラが戻ってきている。その腕の中の赤ん坊はまだ泣いていた。
「行かれたよ」
 言いながら、ザファンは赤ん坊をタラから受け取った。泣き続け、ぼろぼろと落ちる涙を指ですくい取る。しゃにむに振り回す手足。赤ん坊は全身で、嫌がっているように泣いている。
「……どうしたら、いいのかねえ」
 ぼんやりと、タラはつぶやいた。残り少ないイドマの髪を撫でている。もう何日も、イドマは眠り続けている。
 ザファンと暮らすようになって、今日初めてマギンとロシウは見舞いにやってきた。そして何も言って帰らなかった。それは、明らかだったからだろう……ザファンの目にさえ明らかなこと。
 この子は     イドマは死につつある。
 もう、回復の見込みはない。以前は数瞬あった目覚めも、今はもうなかった。二本の細い骨が浮き出た腕の腹、先だけが尖っている耳。身体は痩せて痩せて、元気な時の半分にも縮んでしまった。
 ふいに、タラのすすり泣く声がした。
「泣くなよ」
「だって、おまえ……」
 タラの背が震えている。ゆっくりとイドマの髪を撫でる手つきを、ザファンは背後から見下ろした。
「どうしておまえばかり、こんな辛い目にあうんだい? イドマだって、ユウネだって……。この子たちだって可哀想に……。ユウネと一緒になった時にこの子も連れていってくれれば良かったんだよ……」
 フリエラが死んで、二年がたっている。
 それでもフリエラに繋がるものを嫌がり、二人だけで暮らすことを望んだのはユウネだったが、それはザファン自身の望みでもあった。だからこその暮らしがかつて、あった。
 けれどイドマを、タラを、ザファンは忘れたことがない。病弱な娘、老いた母。出来る限りの生活を営もうと努力をした。けれど限界は……、やはりあったのだろう。
 腕の中で弱々しく暴れる赤ん坊をあやしながら、いつからだろうとザファンは考える。いったい歯車が狂ったのはいつからだろうと考える。
 フリエラと結婚した時からだろうか。イドマが産まれた時からだろうか。それともフリエラが死んだ時? イドマが病に倒れた時? ユウネと恋をして、共にいたいと望んだことが悪かったのだろうか?
 そのすべてが原因であり、原因ではないような気がした。けれど原因が分かったところで、どうしようというのだ。何になるというのだ。そうだとも、結局は。
 結局は、
「……仕方がないこと、なんだよ」
「仕方がないなんて、言わないでおくれ!」
 振り返ったタラの目は、ランプの光を写しこむ。
「おまえが! どうしておまえがそんなことを言うんだい? 他でもない、おまえが!」
 目をそらせたザファンにタラは近付き、向けられた背に拳を力なく打ち付ける。
「イドマを哀れんでやっておくれ……可哀想な子だよ。死ぬしかないなんて。まだ産まれて少ししかたっていないんだよ? こんな、こんなことって」
 あるかい、とタラは言いながら、ザファンの背にすがるようにしてその場にしゃがみこんだ。
 そうして泣くタラを、ザファンは見ない。見ることが出来なかった。答えることができなかった。……ユウネの問いに、答えることが出来ずじまいだったように。
 ザファンには、わからない。
 どうしてこんなことになったのか。どうしてこんな悲しみが、不幸が、自分だけに振り落ちるのか。
「母さん」
 ザファンは赤ん坊を抱いたまま母と同じようにしゃがみこんだ。顔を上げたタラに、赤ん坊を差し出す。
「マギン様の所に、行ってくるよ。赤ん坊の薬をもらってくる。もしかしたら……足りないかもしれないからね」
 ザファン、とタラは呼んだ。
「おまえ、まさか」
「わかっている。絶対に言わないよ」
 祖母の腕の中で、赤ん坊はようやく泣くのをやめた。ザファンはゆっくりと立ち上がり、部屋の奥へと歩み寄る。
 奥といっても、そこには何もない。ただ寝床と、藻で編んだいくつかの行李と、壁をくりぬいた棚とがあるだけだ。その暗闇に、ザファンは一時だけ目をこらした。
「……ザファン」
 不安げな声に振り返る。ザファンは壁に掛けてあるランプを取り上げた。
「ザファン」
 タラの声は落ち着きをなくしていた。それに構わず、ザファンは家のランプから、その小さなランプに火を移した。戸口に向かう。
「ザファン!」
 振り返る気は、最初からない。


Notice it Chapter9 へ続く
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