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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter10 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】



 イドマが     死んだ。
 昏々と眠り続け、そして目を覚ますことなく。激しい衰弱はイドマ自身を取りこみ、ついには呑みこんでしまったのだ。
 無理もない、とロシウは思う。
 食べることが出来なければ、人間は死んでいく。薄緑色の布を敷いた段の上、横たわっているイドマは本当に小さかった。良く取り合った手の指が、あんなにも細くなって。
 手の中の香炉からは、薄く煙が上がっている。
 いつものたゆたう白さも、香りも、今のロシウには悲しいだけ。地底湖のほとり、葬儀の儀式。これもまた、特別な出来事。
 マギンが口を閉じ、祈りの声が絶えた。
 ほう、と誰かが息をつくのが耳に届いた。背後には村人たち全員が集まっている。
 身じろぎする気配が再び収まっていくその中で、シーラとキーナイの赤ん坊がぐずっている緩慢な声が聞こえた。父母が代わる代わるにあやす声もする。
 その控えめな声に押されるように、タラが前に進み出た。泣いている。声を押し殺した歩みは遅い。
 タラが段にたどり着くとマギンは身を引いてイドマの正面を譲る。タラはイドマのこけた頬を両手で撫で、そして布の端を持ち上げた。
 ひと折り、ふた折り。段のまわりをタラは巡り、イドマの顔だけを残して、彼女を包みこんでいく。ロシウは煙を上げる香炉を足下に置き、用意していた香壺をマギンに差し出した。
 受け取ったマギンは蓋を開けて、タラに向けた。壺の中には香炉にくべたのと同じような脂が入っている。
 タラの細い指がほんの少しをすくい取り、乳白色のそれをイドマの色のない唇の上に載せた。食べることに窮した口元。せめてこれからは、飢えることのないようにとの願いをこめて。
 マギンは壺の蓋を閉じ、ロシウに返す。タラは一歩下がり、今度はマギンが布を持ち上げる。完全に布に覆われて、ますますイドマは小さな繭のようだ。
 その隠された額に手を置いたマギンが再び、言葉少ない祈りを捧げた。次に手を離したその時、用意された墓守人が前に出て、小さな繭を担ぎ上げる。
 地底湖へと踏みこんでいく墓守人の後を追って、マギンは段を回りこむ。ロシウも後に続こうとして……足がすくんだ。
 マギンが振り返る。足先はもう、波打ち際に届いている。
「そこにいなさい」
 ロシウは黙って頷いた。ざぶりざぶりと湖面が割れ、水が散った。
 歩みを進めれば、地底湖は深みを増す。今ではマギンの胸の高さに水面はあった。それまで水に濡れぬようにと、肩の上に掲げていたイドマから、墓守人は手を離す。
 軽い身体は水面を漂うように浮かんだが、それも一瞬だった。
 背を向け、離れるマギンと墓守人。彼らが水辺にたどり着く前に、イドマは水に沈んでいった。湖に住むサカナたちが、藻布にくるまれた繭を水底へと引きこんだのだ。
 葬儀は終わった。
 水から上がった者たち、集まっていた者たちが、それぞれに戻っていく。その中には、シーラとキーナイの姿もあった。
 衣からしたたる水に構わず、マギンはタラに歩み寄る。顔を覆ってすすり泣くその肩に、手を置いた。
 語りかける声は、少し離れたロシウまでに届かない。何度も頷くタラの姿は、前にもまして小さくなったようにロシウには思えた。
 そのタラの足下、籠の中には、双子の赤ん坊がいるはずだった。父もなく母もなく、祖母だけを守りとして。
 ロシウにも、同じように親がいなかった。
 小さい頃には母がいたが、いつの間にかいなくなっていた。父がいたという記憶はなく、気付けばマギンと共に暮らしていた。
 だからきっと、とロシウは思う。マギン様が僕のお父さんのようなものなんだろう。
 タラが泣いている。双子を入れた籠を重そうに抱き、マギンに頭を下げた。
 去りゆく姿を見送って、マギンはロシウを振り返った。
 その顔を見て、急にロシウの胸はきゅうと痛んだ。いつものように頭を撫でてほしかった。そうすれば、きっと、湖のほとりにだって行けるはず。
 だからロシウは顔を上げた。鼻をすすって、出てもいない涙をこらえる。
 そうして、マギンに向かって歩き始めた。


Notice it Chapter11 へ続く
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