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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter11 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】


「ギミー! ダリー!」
 ロシウはカオガミ様の湖に駆けつけて、あたりを見回した。水際に求める姿は見つからない。
「返事をなさい!」
 もう一度、名を呼ぼうと息を吸いこんだ時、岩場の影からぴょこりと出た、小さな顔に気が付いた。
「ギミー、ダリー」
 怒っていることを悟らせないように、ロシウがゆっくりと名前を呼ぶと、その覗いた顔は一度引っこむ。もしょもしょとささやきあう声がした。
「……見つかっちゃったね」
「……見つかっちゃったよ」
 つかつかとロシウは岩場に近寄った。顔を見合わせている双子を上から覗きこむ。
「見つかっちゃったじゃありません」
 子供たちは首をすくめるようにして笑っている。本当に、この二人は少し目を離すといなくなってしまう。
「二人だけで湖に来ちゃいけないと、あれほど言ったでしょう?」
 少し厳しめの声で言うと「えー」と不満そうにギミーとダリーはそろって頬をふくらませた。
「だって、来たかったんだもん」
 ねー、と二人は声を合わせる。ダリーはぬいぐるみを抱き締めると「だってね」と続けた。
「カオガミ様のところって綺麗なんだよ」
 うん、とギミーも頷いて、そうして上へと手を伸ばす。
「ほらね、ロシウ。光が帯みたいなの!」
 ギミーの指の先を追って、ロシウは顔を仰向けた。
 暗い暗いランプの光も届かぬ頭上から、一筋の光が差しこんでいる。天上の国、天上の光。何年ぶりかに、その洩れ入る光をロシウは見上げた。
 あれから     何年もの時がたった。
 幼かったある日、天上の国へ旅立った人。語られない顔も名前も思い出すことをしなければ、それらはいつしか薄れ、消えていく。もうはっきりと思い浮かべることも出来なかった。
 あの人が去ってすぐ、村人は四九人になった。
 あの人の守りたかったものが欠けていく葬儀の風景を、ロシウは覚えている。間もなくして、あの人の母も死んだ。身寄りを失い残された双子の赤ん坊は、マギンが引き取った。
 それからずっと、ロシウは幼い子供たちと共にいる。
 この村は貧しい。生きることに飢えるほどに、この村は貧しい。
 今いる村人たち全員が、選ばれなかった過去を持っている。カオガミ様の儀式によって天上の国へと去った者たちの犠牲の上に生きていることを、全員が承知している。
 天上の、国。
 あの人が自ら行き、かつてはロシウの母が選ばれ、行ったという世界。そこには何もかもがあり、同時に、何もないことを、今ではロシウも知っている。けれど、
      知ったところで、何にもならない。
「……そうだね。綺麗だね」
 つぶやく声が、胸に落ちて消えていく。射しこむ帯は細く、真っ直ぐ、うらうらと湖を照らし出す。そらした目にいつまでも、それは影となって残り続けることだろう。
 だから……今は。
 だから今は、それだけを思おう。射しこむ光を美しいと思っていよう。それには手が届かないことを忘れていれば、悲しむこともないのだから。
 ロシウはギミーと、そしてダリーを見下ろす。二人は湖のほとりに立ち、静かな水辺で互いに上を指さしている。
「ギミー。ダリー。もう戻ろう」
 ロシウは両手を広げるギミー、それを真似するダリーに声をかける。双子はすぐに「うん!」と元気に頷いた。
 あのね、とロシウはダリーの手を取る。
「いくら湖に来たくても、やっぱり二人だけで来てはいけないよ。水の側は危ないんだ。来たかったら、そう言いなさい。そうすれば、僕も一緒に来てあげるから」
「ほんとう?」
「ほんとう?」
「本当です」と、ロシウはギミーの手も握った。
「だから二人だけでこっそり来るのはやめなさい」
 はーい、と声をそろえながらも、二人共がいたずらっぽく笑いあうから、ロシウは気が気でない。こっそりため息をつく。
「ちゃんと聞いているのかい?」
「聞いてるよー」
「聞いてるもん」
 もう一度、ロシウは「どうだか」とため息をつく。ぱっとギミーが手を離した。数歩先に駆けていく。
「言うこと聞くもん! ダリー、行こ!」
 ダリーは一瞬ロシウを見上げ、そしてやっぱり手を離した。おっとりと双子の兄の後を着いていく。ギミーは「ロシウ」と呼んだ。
「早く来ないと追いて行っちゃうぞ!」
 ギミーの背後には暗闇が口を開けて待っている。壁に掛けてあるランプがなければ、一寸先も見えない暗闇が。
「早くって、どこへ行くの?」
 少し笑いながら、ロシウもギミーの側へと向かった。ギミーは胸を張る。
「ウコムのうち! この前、お腹の赤ちゃんにさわらせてくれるって言ったんだ!」
 そうか、とロシウは笑みを崩さない。そのままダリーに追いついて、その背にそっと手を当てる。
「じゃあ、いい子にしないといけないね。乱暴になんかしたらお腹の子がびっくりするから」
「乱暴になんかしないもん! そーっとさわるんだ!」
「……ギミー、うるさい」
 はしゃぐようなギミーの横で、ダリーがつぶやく。さあ、とロシウはギミーに向けて手を出した。
「皆でお見舞いに行こう。喜んでくれるといいね」
 にっとギミーは笑って、ロシウの手にぶら下がるようにする。ダリーもそっと、ロシウの手を握った。
 そうして二人を両脇に、ロシウは坑道を下っていく。ランプが投げかけるほの赤い光だけに、足下を照らされて。
 今、村人の数は     四九。
 これからウコムの子供が産まれれば、村人の数は五〇になる。なってしまう。無事に育つとは限らない。誰もが生きているとは限らない。けれど……儀式を行わざるをえない日は確実に近付くことになる。
 何人があの地底湖に沈み、そして何人が産まれただろう。サカナたちは藻布にくるまれた人々を水に引きこみ大きくなり、やがては村人に釣り捕らえられる。
 そうしていのちは巡るのだ。巡りながら閉じている。まるでこの村、そのもののように。
 カオガミ様の試練は、村人を破滅から守っている。
 生きること自体に限界があるこの村に、その守護は不可欠だ。境界はすぐそこにあり、もし誰か一人でも禁を忘れればその後には、……死が待っている。
 あの人のしたことに意味を与えてはならない、そうマギンは言う。けれど、とロシウは思うのだ。もし再び、その時が来たら、自分はどうするのだろう……?
 湖の水の冷たさ。泡立つ臭い。腕が抜けるかという痛みと、引きずられる恐怖。
 彼は境界を踏み越えた。マギンが言うように、その意味など、やはりないのだ。彼が天上に行ったことに、彼の娘が死んだことに、彼の母が死んだことに。
「ロシウ?」
 いつの間にかうつむき歩く顔を、ダリーが見上げていた。どうしたの、と続く声にロシウはゆるゆると首を降る。
「なんでもないよ、ダリー。なんでもない」
 ふうん、とダリーはあっさりと言って、ぬいぐるみを抱き直した。暗闇の中では、握りしめる手だけが確かになる。この手を、ロシウは失いたくなかった。
 この子たちが選ばれるかも知れない不安に耐えることが出来るだろうか。この子たちが選ばれた悲しみに耐えることが出来るだろうか。
 そのぼんやりとした、畏れ。
 けれど、ロシウは知っている。いざその時、自分がどう振る舞うのかを。カオガミ様を信じ、マギンに従い、自分がどう行動するかをロシウは知っている。
 ロシウはこの村に生まれ、この村に生きていく。
 それがすべてであり、他には無い。今日も、明日も、この先何年たっても変わらない。暗闇の中に目をふさぎ、耳を閉ざして。



Notice it Chapter12 へ続く
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