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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter3 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】


 この朝も、タラは家の前に立ち、マギンとロシウがやって来るのを待っていた。
 カオガミ様の湖から村へ戻る。村の中は完全な闇だ。深く深く降りていく土の中、ランプの照らす輪の中でしかロシウたちは暮らせない。
 濃くなる闇を進めば、その先にぽつぽつとランプが下げられているのが見えてくる。それが家の戸口。タラの家は中でも小さく絞った明かりでそれと知れた。
「毎朝、有り難うございます、マギン様」
 そう言って、タラはマギンの手を額に押し頂く。マギンは優しくその礼に応え、祝福をその額に授けてやる。
 毎朝のその仕草が終わると、タラはふうと戸口のランプの火を吹き消した。マギンの持つランプだけが光源となる。ランプを灯す脂にも限りがあり、けしてそれを越えることはありえない。
 それがタラとイドマ、二人の暮らしだった。
「変わりはないかね?」
 いつもと同じ、最初の言葉。タラの悲しそうな答えもいつもと同じで変わらない。
「今日も熱が下がらないのです」
「そうか……」
 マギンはただ、頷いた。
 勝手知ったる室内を、ランプの明かりが照らし出す。たった一間。ここでタラは煮炊きし、休む。そして幼い孫娘も。
 ランプの光が粗末な寝床にたどり着く前から、耳には荒い息づかいが届いていた。喉が鳴る、ひゅーひゅーという音。まるで地下から吹き上げる、冷たい風のような。
 寝床に横たわり、きつく上掛けをつかんで、イドマは眠っていた。しかめられた眉根と、ぷつぷつと額に浮く汗。半開きの口元から、小さな身体に似つかわしくない荒い息を吐いて。
 イドマは幼いロシウよりも、さらに幼かった。
 粗い生地の下、盛り上がった身体の輪郭は小さく、薄い。骨と皮ばかりになった手首、細い首ばかりが長く見えて。
 まだ起きあがれていた頃には、少しは肉の付いていた頬もげっそりとこけてしまっている。顎は飛び出て、眼は落ちくぼみ、そのまわりをたるんだ皮膚が取り巻いている。
 まだ幼児だというのに、まるで老婆のようだった。
「イドマ、イドマ」
 タラはそっとイドマを揺り動かす。
 最初は身体にさわるからと、タラの手を止めていたマギンも、この頃では何も言わなくなった。何度も揺すられて、そしてイドマは目を開く。
 瞳の中、ランプの光が揺らめいた。
 そこにあるのは刺々しさだ。むずがるようにイドマは寝返りを打つ。荒い息が激しくなる。
 マギンが折れそうに細い手首を取った、そのかたわらに、ロシウは立つ。覗きこんだイドマは、眼を開いていた。
「……イドマ?」
 ロシウが小さく呼びかけると、ほんの少しだけ、イドマは眼を見開いた。少し目元がゆるんだ気がして、ロシウも少し微笑む。親しく遊んでいたことを、きっと覚えていてくれるのだ。
 ロシウより小さい子供は今、この村にはイドマしかいない。
 この村はもともと子供が少ないから、遊び相手は自然限られた。二人でよく湖の周りを意味もなく走り回ったり、サカナを釣る人々に獲物を見せてもらったりした。しかしそれももう、遠い話だ。
「今日は何か食べたかね?」
 そっとロシウがイドマの髪に手を伸ばす頭上で、マギンが問いかける。
「煮汁をほんの少しだけ……あまり欲しがりません……」
 そうか、とだけマギンは言った。
 病を得ても、どうすることもできなかった。
 簡単な怪我になら、薬を用意することができる。けれどそれ以上になるとまるで駄目だった。なんの手当もできはしない。ただ身体を休ませ、少ない食べ物から分け与える。それしかできないことを皆が、知っていた。
 マギンはイドマの手を、上掛けの中に入れた。そっと、折れてしまわないように静かに。
 タラ、と呼ぶ声はさらに静かだった。
「無理にでも、食べさせなければならないよ。そうでなければ、」
 言葉を続ける変わりに、マギンは深く息をついた。上掛けの上から、優しくイドマを撫でてやる。
「食べるものはまだ、あるのかね?」
「……はい」
 タラはおろおろと頷く。マギンはロシウを促した。
 ロシウはイドマの枕元を離れ、ランプを持った。光の輪が揺れる。その視界の中で、ロシウは慎重な手つきでタラの家のランプに、脂を半分移していく。これで夕方までもつはずだ。
 ベッドの側、ランプの光の中でタラが深々と頭を下げるのを見て、ロシウもぺこりと頭を下げた。
「また後で、様子を見に来るよ」
 ロシウからランプを受け取って、マギンは戸口に向かう。その後を追うロシウは、イドマの髪を撫でた手をもう片方の手で握りこんだ。
 イドマの髪は乾いていた。乾燥させた藻をさわった時の感触と同じだった。
 長くは生きられないだろう、とロシウは思った。


Notice it Chapter4 へ続く
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