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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter5 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】

 
 ユウネが寒くないようにありったけの上掛けを掛けてやる。寒さを追い出すことは出来ないにしても、そう願うことは出来るから。
 最後にユウネの頬をそっと撫で、そしてお腹に手を当ててザファンは家を出た。坑道を地下へと降りていく。
 その途中、何度も行き交うランプとすれ違う。どのランプの持ち手も、薄い笑顔でザファンに挨拶した。
 その頬がこわばっていることに、ザファンは気付かない振りをした。
「シーラの子は女の子だ」
「元気だそうだよ」
「キーナイは大喜びだ」
「なんにせよ、良いことではある」
 過ぎて、来る、様々な言葉。ザファンは笑って答える。
「キーナイに似ているのでしょうか」
「元気なのは安心ですね」
「祝いを言わなければ」
「もちろん良いことです」
 誰もがそう笑う顔から目をそらした。
 そそくさと、ランプを抱えるように闇の中へ消えていくその姿を、ザファンは振り返らずにさらに降りていく。地底湖にたどり着いた。
 大きな大きな、村の生活を支える大きな空洞。ぼんやりとでも明るいのは、所々の高所に灯されたランプのお陰だ。いくら資源のないこの村だといえ、この灯が吹き消されることはない。
 静かに波が打ち寄せる岸辺で、ザファンは足を止めた。
 遠くの入り江のようになった場所で、いつものように釣り糸を垂れている者がいる。さらにその向こうで、女たちが岩場で苔を削り取っている。
 いつもと同じ光景が、手の届くところにある。いつもならザファンもその中の一員であるのに。
 どこかの水辺で、サカナが跳ねる水音がした。
 再び、ザファンは歩き出す。地底湖を越え、さらに深みへ繋がる坑道を降りて産屋にたどり着く。そこに一人でしゃがんでいるロシウを見つけた。
 ザファンが近付く前に、ロシウは気が付いて立ち上がる。
「ザファンさん」
 ロシウは、ザファンにとっても近しい子供だ。まだフリエラが生きていた頃に繋がる子供。イドマと良く遊ぶ姿を目にしていた。元気だった娘の……仲の良い友達。
 ザファンの胸が、ずきりと痛んだ。
「ロシウ様、シーラの様子はいかがでしょうか?」
 問いかけると、子供はにっこりと笑った。
「元気です。シーラさんも、赤ちゃんも。良かったです。無事に産まれて」
「そうですね」
 ザファンが頷くと、ロシウは「はい」と心底嬉しいように笑う。まだイドマとそう変わらない歳だというのに、まるで大人のような物言いをこの子はする。
「シーラに、……会うことはできるでしょうか?」
 気付けば口から出ている言葉。
 会ってどうすると言うのだろう。どんな顔をして、何を言えばいいのだろう。
 けれど一度出た言葉は繋がりを見せて止めどがない。勝手にザファンの口から流れ出た。
「キーナイにも会えるでしょうか? 無事に子供が産まれた祝いを言いたいのです」
「それはいいことだと思います」
 ザファンの迷いをよそに、ロシウはまた笑った。柔らかそうな、ふっくらとした頬をして。
「少し待っていてくださいますか? 今、司祭様にうかがって参ります」
 ザファンの返事も待たず、ロシウは慌ただしく身をひるがえす。その小さな姿を、何の気なしにザファンは目で追った。
 ふとうつむけば、そこにはさっきまでロシウが遊んでいたらしい小石が数個、置かれていた。大きさによって順序よく、一列に並ぶ小石。脇にはまだ選ばれぬままの小石が固めて置いてある。
「ザファン」
 厳しい声がした。顔を上げると産屋の戸口に、マギンが立っていた。いつからそこに立っていたのか、まるで気づけなかった。
「どうしてここに?」
 そのマギンの少し後ろで、ロシウが目を丸くしてマギンの後ろ頭を見上げているのが見える。マギンの声に含まれた苛立ちを、きっとあの子は理解できない。
「……祝いを、言いに」
「祝いを?」
「赤ん坊が産まれたと、聞きましたので……」
 ザファンは再びうつむいた。並んだ小石が目に入る。見つめてくるマギンを、見返すことが出来なかった。
「それで様子を見に来たという訳か」
 つかれたため息が、胸に突き刺さった。浅ましい。浅ましい。祝いを言いになど。
「心配はいらない。シーラも、赤ん坊も、無事だ。何事もない。ただ、今は眠っていて会うことは出来んがね」
「そう、ですか……」
 ザファンはうつむいたまま一度、目を閉じた。
 開いた目に、小石が写りこむ。……選ばれ、選ばれず。無理矢理に上げた顔に笑みを乗せる。
「本当に良かった。ユウネも心配していますから、見に行ってくれと頼まれたのです」
 そうだ、これは喜ばしいことなのだ。
 シーラは、キーナイは、二人共がいい人間だ。良く見知った好ましい友人だ。祝いを言うのだ、自分もユウネも。
「マギン様の言葉を聞いて安心しました。これで嬉しい報せを持ち帰ることが出来ます。産まれてくる子に同い年の友人が出来る、と」
 マギンは軽く、目を見開いた。ロシウ、とかたわらに呼びかける。
「シーラの様子を見ておいで。もう、ここはいいから」
 はい、とロシウは聞き分けよく頷いた。軽くザファンに会釈して奥に戻っていく。その姿を目で追って、そしてマギンは改めてザファンに向き直った。
「わかっているのかね、ザファン?」
 何を、と問いかける必要はない。それがこの村のしきたりだから。だからザファンは初めてマギンを見返す。睨み付けた。
 目の前にいるのは神の司祭。神の代理人。
「わかっていますとも。シーラとキーナイの子供が産まれて、ちょうど五〇人になった。充分すぎるほどにわかっています。私の子供が産まれれば、それは」
 激した心が急速に力を失う。そう、ユウネが子供を産めば、それは、
 ……この村には、五〇人しか生きられない。五一人目を養う力がこの村にはない。昔から、そしてこれからも。貧しいのだ、生きることに飢えるほどに。
 はじき出される五一人目は天上の国に送られる。ただ一人、誰頼るあてのない地上の世界に放り出されるのだ。その身に神が選んだ祝福のみをまとい     果てない荒野をいかねばならない……たった一人で。
「わかっていれば、それでいい」
 今度落とされたため息は、マギン自身のものだった。
「おまえの子が産まれれば儀式を行うことになるだろう。五一人目の存在を、一時たりとも神はお許しにならない」
 だが、とマギンは続ける。
「忘れないでくれ、ザファン。産まれてくる子供たちや、おまえたちが必ずしも神に選ばれるとは限らない。誰が選ばれるかは……神の御心次第なのだということを」


Notice it Chapter6 へ続く
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