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2009.05.31 (Sun)

Notice it Chapter7 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】

 ユウネを失い、ザファンはタラとイドマを呼び寄せた。
 二人に何の荷物があるわけでもない。ほぼ身一つの家移りは、すぐに終わった。男手一つで赤ん坊の世話をするのは、やはり大変なことなのだ。
「きちんと食べているのかね?」
 ザファンが共に住むようになっても、一向にイドマの病状は変わらなかった。
 こけた頬が肉を取り戻すことはなく、肌は目に見えて青白く冷たくなった。寝床には抜け落ちた髪が散らばり、今では薄い髪を透かして地肌が見えるようになっていた。
「あまり食べてくれないのです。口元まで持っていっても吐き出してしまう有様で」
 ザファンが苦しげに答えるその後ろで、タラが赤ん坊をあやしている。赤ん坊は何が気に入らないのか、マギンとロシウが来る前から泣きっぱなしだ。
 マギンは眠っているイドマの手を寝床に戻し、ザファンを振り返る。柔らかな笑みを口の端に乗せていた。
「イドマもだが、おまえやタラのことだよ。きちんと食べているのかね?」
 マギンがそう訊くのも無理はないくらい二人共、赤ん坊が産まれる前に比べればさらに痩せた。その頬骨の浮き出方は、親子だけにそっくりだった。
 ザファンはきょとんとし、ややして「あぁ」と無感動に頷いた。つるりと顔を撫でる仕草をする。
「私も母も、きちんと食べてはいますが。やはり赤ん坊とイドマの世話が大変で……」
「元気な子だな」
 マギンは目を細めて、タラの腕の中を見上げた。やっと赤ん坊の泣き声は弱まり、今ではむずがるような声になっている。
「夜中に泣いている声が聞こえるが、ちゃんと眠れているかね?」
 はあ、とザファンは曖昧に頷く。
「申し訳ありません」
「謝ってもらうことではない。良く泣く子は元気に育つ。シーラの子も良く泣いているからな」
 シーラの名を聞いて、ザファンがびくりと背を揺らすのにロシウは気が付いた。
 マギンは立ち上がって赤ん坊を覗きこんでいる。
 その姿をイドマの側から見上げるザファンは、ずいぶんと疲れているようにロシウには思えた。痩せたせいで目の周りが落ちくぼんで影が差し、そう見えるだけだろうか。
「シーラには、本当に良くしてもらっています。自分の子が残した乳を分けてくれるのです」
 マギンは赤ん坊を覗きこんだまま、ただ頷いた。
 承知していることだった。お互いが助け合うことができなければ、この村では子供を育てることすら難しい。
「ユウネが、……生きていれば、シーラに世話を掛けることもなかったのですが。シーラは哀れんでくれるのです、母のない、この子を」
 やっとマギンは赤ん坊から目を離した。うつむくザファンの、握られた拳を見つめたように思えた。
「哀れんでくれるのは、悪いことではないよ。我々は今までもそうして子供を育ててきた。……子供が産まれるのは、本来的に危険なことなのだ」
「わかっています。でも思わずにはいられないのです。そう思うことが間違っていると気付いていながら!」
 ザファンは握った拳を自分の膝に打ち付けた。見開いた目は床を見つめていた。さらに何度も何度も、ザファンは拳を高く振り上げる。
「どうしてユウネだったんでしょう? どうして母を失ったのはこの子だったんでしょう? 同じ時に産まれたというのに、死ぬのは」
「ザファン」
 マギンは低く名を呼んだ。
「その先を口に出すつもりかね?」
 ゆるゆると、上がったザファンの拳が降りていく。そのまま膝を抱えでもしたいように、ザファンは深く頭を垂れた。マギンはその肩にそっと、手を添える。
「祈りなさい。ユウネはわかってくれている。おまえがどれだけユウネに会えず、辛い思いをしているか。ユウネのためだけではなく、おまえ自身のためにも祈るのだ。神は必ずおまえを慰めてくださる」
「……はい」
 う、とまた赤ん坊の声がした。また泣くのかと赤ん坊を見上げたロシウは、タラが慌てたように赤ん坊を揺するのを見た。次の瞬間、赤ん坊はまた、火がついたような大声で泣き始める。
「やれやれ、かなわんな」
 肩をすくめるようにそう言って、少し笑いながらマギンはロシウを促した。ロシウは床に置いていたランプを取り上げる。
 今ではランプの脂を分ける必要もなくなった。ザファンが二人の元に戻ったというのは、そういうことなのだ。
「戻ったら、ロシウに赤ん坊の癇に効く薬を届けさせよう。それを飲ませれば、少しは眠るようになるはずだ」
「ありがとう……ございます」
 タラは泣き続ける赤ん坊を抱えて奥に入っていく。ザファンは潤んだ目をこすった。いっそう疲れたような顔をして、それでも頭を下げた。
 それに軽く手を払って、マギンとロシウは外へ出た。
 しばらくそのまま歩いても、反響するように赤ん坊の泣き声は聞こえてくる。不意に先を行くマギンが立ち止まった。
「司祭様?」
 声をかけても、マギンは止まったままだった。ゆっくりと、来た道を振り返り見る。
「司祭様? どうかなされたんですか?」
 いや、とマギンは答えた。仰ぎ見る、ランプの光に照らされた横顔はいつものとおり厳めしかったが、そこに見慣れない色があるのにロシウは気が付く。
 もう一度、マギンは「いや」と言った。そう言うことで何かを否定するように。
「私の……考えすぎだろう」
 けれどそうロシウを見下ろす目は、隠しきれない不安をたたえている。


Notice it Chapter8 へ続く
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