大空白時代
『天元突破グレンラガン』二次創作小説ブログ。ロシウ中心のシリアス小説だけだと思います。時折メルヘン入りつつ(笑)ゆる~く設定捏造してます。
2009.05.31 (Sun)
君をさがして、明日の丘で Scene5
『天元突破グレンラガン』
空が駆けていく。
帰投した時とは反対に、茶色の地肌が良く見下ろせた。来た道をたどるように見えるのは、カミナシティを囲むのが、みんな同じような土地だから。
砂漠地帯をかすめていくらか飛ぶと、丘陵地帯が見えてくる。その山の端にグレンラガンは降り立った。
そこはかつてグレン団が戦った場所でもある。テッペリン攻略戦の初期の頃、オアシスに陣を張り、臨んだ場所だったことをロシウは覚えている。
「何、ここ?」
一足先にラガンを降りたシモンは、探るように見回しながら、岩だらけの台地を坂に沿って歩き出した。
山間部であるこの周辺に雨はほとんど降らず、シモンが歩くたびに乾いた土地は砂埃を上げる。白い服の端がざらつくようになるのも時間の問題。
グレンを降りながらロシウが見守る先、だらだらと続く坂を下っていたシモンが足を止めた。
たぶんその場所から傾斜はぐんときつくなる。見下ろす坂の下、山裾には、緑の灌漑農地があるはずだ。
それはまるで、緑色の大きなボタンがいくつも並んでいるように見えることだろう。
地下水脈を流れる水を汲み上げ、巨大なスプリンクラーで散水する。その範囲内で栽培するから、農地は自然円形に近くなる。麓にはそうした農地が見渡す限りに広がっている。
「先日、報告書をあげた新しい試作農地です」
同じように坂を下ってきたロシウが隣に並ぶと、シモンは「農地かあ」と、ちょっとがっかりしたような声を出した。
「付き合ってほしいなんて急に言うから、いったい何かと思ったら、結局いつもの農地視察じゃないか。ロシウは俺に仕事させるの、上手いよねえ」
最後にごにょごにょと「俺だって最近はちゃんと、言われなくても……」と自分でつけ加えて、シモンは肩を落とした。ロシウは苦笑するしかない。
「仕事をしてもらうつもりでここに来たわけではないんですが……。そう言われると、そうかもしれませんね」
そうだよ、とシモンは気を取り直したように額に手をかざす。傾き始めた午後の陽射しが、そろそろまぶしい。
「それとも、誰か知っている人がここの農場で働いてるとか?」
たとえばジーハ村の、アダイ村の、人々のように。
地下世界から人間を連れだす政策は着々と進んでいる。解放された地上世界に戸惑う人々を、政府は農場へと導いている。土地を与え、生活の術をもたらしている。
彼ら自身の自立と、多くの市民を養うために。
けれど「いいえ」と、ロシウは答えた。
「そういうわけでもないんです」
「なんだ」シモンは拍子抜けしたように笑う。「じゃあ、何で? ここはロシウが俺と来たかった場所、なんでしょ?」
不思議そうにシモンは首をかしげた。ロシウは農地を改めて見下ろした。散水時間を終えているのだろう。吹く風にそよぐ緑の他に、動くものの影とてない。
「ロシウ?」
本当に、どうしてここへ案内したんだろう。呼ばれた声に、ロシウはシモンに向き直った。
「別に場所はどこでも良かったんだと、思います」
へえ?と、シモンは少し笑う。ロシウも笑い返した。もう引き返せない。
「ただ、……最後に」
言葉が勝手に途切れた。うん、とシモンは促すように頷いた。ロシウはその顔が見れなくて視線を落とす。靴の先が砂埃で茶色くなっていた。
もう一度、ロシウは顔を上げる。ねえ、シモンさん。僕はちゃんと笑えていますか?
「最後にシモンさんと、グレンラガンでどこへ行こうと考えたら、ここになってしまったんです」
うん、と一度シモンが頷きかける。「え?」
「今、最後にって言った? 何が最後なの?」
シモンはまたたく。顔をしかめながら、落ち着きなげに片手が上がって耳へと伸びる。
この場面を、何度も何度も思い描いてきた。どんな顔を見ることになるのだろう。どんな顔をして言うのだろう。
「グレンラガンは、シモンさんひとりでも、動かせる」
シモンの腕が動きを止めた。
「どういう意味?」
鋭くなった声音に、ロシウはそっと息を整えた。
心の中で何度も口にした台詞が欠片も思い出せない。波打つ心とは関係なくロシウは軽く、片手を上げた。その手の平に、言葉をつかんだような気がして。
「僕はもう、」
口から飛び出た言葉はロシウの耳にも静かに響いた。まるで断ち切る心、そのもののように。
「グレンには乗りません。そう決めました」
君をさがして、明日の丘で Scene6 へ続く
【More・・・】
空が駆けていく。
帰投した時とは反対に、茶色の地肌が良く見下ろせた。来た道をたどるように見えるのは、カミナシティを囲むのが、みんな同じような土地だから。
砂漠地帯をかすめていくらか飛ぶと、丘陵地帯が見えてくる。その山の端にグレンラガンは降り立った。
そこはかつてグレン団が戦った場所でもある。テッペリン攻略戦の初期の頃、オアシスに陣を張り、臨んだ場所だったことをロシウは覚えている。
「何、ここ?」
一足先にラガンを降りたシモンは、探るように見回しながら、岩だらけの台地を坂に沿って歩き出した。
山間部であるこの周辺に雨はほとんど降らず、シモンが歩くたびに乾いた土地は砂埃を上げる。白い服の端がざらつくようになるのも時間の問題。
グレンを降りながらロシウが見守る先、だらだらと続く坂を下っていたシモンが足を止めた。
たぶんその場所から傾斜はぐんときつくなる。見下ろす坂の下、山裾には、緑の灌漑農地があるはずだ。
それはまるで、緑色の大きなボタンがいくつも並んでいるように見えることだろう。
地下水脈を流れる水を汲み上げ、巨大なスプリンクラーで散水する。その範囲内で栽培するから、農地は自然円形に近くなる。麓にはそうした農地が見渡す限りに広がっている。
「先日、報告書をあげた新しい試作農地です」
同じように坂を下ってきたロシウが隣に並ぶと、シモンは「農地かあ」と、ちょっとがっかりしたような声を出した。
「付き合ってほしいなんて急に言うから、いったい何かと思ったら、結局いつもの農地視察じゃないか。ロシウは俺に仕事させるの、上手いよねえ」
最後にごにょごにょと「俺だって最近はちゃんと、言われなくても……」と自分でつけ加えて、シモンは肩を落とした。ロシウは苦笑するしかない。
「仕事をしてもらうつもりでここに来たわけではないんですが……。そう言われると、そうかもしれませんね」
そうだよ、とシモンは気を取り直したように額に手をかざす。傾き始めた午後の陽射しが、そろそろまぶしい。
「それとも、誰か知っている人がここの農場で働いてるとか?」
たとえばジーハ村の、アダイ村の、人々のように。
地下世界から人間を連れだす政策は着々と進んでいる。解放された地上世界に戸惑う人々を、政府は農場へと導いている。土地を与え、生活の術をもたらしている。
彼ら自身の自立と、多くの市民を養うために。
けれど「いいえ」と、ロシウは答えた。
「そういうわけでもないんです」
「なんだ」シモンは拍子抜けしたように笑う。「じゃあ、何で? ここはロシウが俺と来たかった場所、なんでしょ?」
不思議そうにシモンは首をかしげた。ロシウは農地を改めて見下ろした。散水時間を終えているのだろう。吹く風にそよぐ緑の他に、動くものの影とてない。
「ロシウ?」
本当に、どうしてここへ案内したんだろう。呼ばれた声に、ロシウはシモンに向き直った。
「別に場所はどこでも良かったんだと、思います」
へえ?と、シモンは少し笑う。ロシウも笑い返した。もう引き返せない。
「ただ、……最後に」
言葉が勝手に途切れた。うん、とシモンは促すように頷いた。ロシウはその顔が見れなくて視線を落とす。靴の先が砂埃で茶色くなっていた。
もう一度、ロシウは顔を上げる。ねえ、シモンさん。僕はちゃんと笑えていますか?
「最後にシモンさんと、グレンラガンでどこへ行こうと考えたら、ここになってしまったんです」
うん、と一度シモンが頷きかける。「え?」
「今、最後にって言った? 何が最後なの?」
シモンはまたたく。顔をしかめながら、落ち着きなげに片手が上がって耳へと伸びる。
この場面を、何度も何度も思い描いてきた。どんな顔を見ることになるのだろう。どんな顔をして言うのだろう。
「グレンラガンは、シモンさんひとりでも、動かせる」
シモンの腕が動きを止めた。
「どういう意味?」
鋭くなった声音に、ロシウはそっと息を整えた。
心の中で何度も口にした台詞が欠片も思い出せない。波打つ心とは関係なくロシウは軽く、片手を上げた。その手の平に、言葉をつかんだような気がして。
「僕はもう、」
口から飛び出た言葉はロシウの耳にも静かに響いた。まるで断ち切る心、そのもののように。
「グレンには乗りません。そう決めました」
君をさがして、明日の丘で Scene6 へ続く
| BLOGTOP |