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2009.05.31 (Sun)

君をさがして、明日の丘で Scene6 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】


「僕はもう、グレンには乗りません。そう決めました」
 ロシウの声は、まるで跳ね返るようだった。
 シモンはロシウを見つめることしかできなかった。少しも意味がわからない。
「何? 今、何て言ったんだよ?」
 シモンはただ、上げた手で右の耳を撫でる。耳がおかしくなったわけじゃない。それはわかっていたけれど。
「僕は、」
 目の前に立つロシウは続ける。「グレンを降りたいんです」まるで騙し絵のようにやはり右手をあげて、その手を見て。
「それはわかったよ」
 つっけんどんな声になった。言葉尻がきつくなる。
「決めたって、何を? 何で決めたわけ?」
 上げたシモンの腕が行き場をなくす。耳をかすめて、にぎりしめて。そのまま落ちた。
「シモンさんも気付いていたんじゃありませんか? 僕の、右手の反応が……遅いことに」
 わけがわからない。ロシウは右手をゆっくりと開いて、ゆっくりと閉じている。うつむいた口の端が、小さく上がっていた。微笑んでいる。……俺を見ない。
「少し前の出撃からずっと、グレンとラガン、そしてグレンラガンの稼働データを細かく取っていたんです」
「それは知ってるよ。量産機のためだろう?」
 はい、とロシウはうつむいたまま頷いた。右手をずっと動かしている。見つめているのはその、指先。
「はっきりと結果が出ました。シモンさんの動きと、指示と、僕の操作は追いつけない。一瞬、いつも遅れているんです。今日の出撃でも、やはりそうでした」
 ロシウはつい、と右手を差し出した。
 つられるようにシモンも手を伸ばし、その手を取る。そしてその温度に驚いた。まるで一本一本が石ででも出来ているように、ロシウの指は冷たかった。
「だって、」
 声がうわずる。にぎった手を離すこともできなくて、シモンは両手でロシウの右手を包みこんだ。温めるようににぎり直しても、感じる冷たさは変わらない。
 その冷たさはシモンに朝の冷気を呼び戻す。もう一年以上も前になるあの朝の、螺旋王を倒した朝の空気を。
一緒に笑った顔を思い出す。その右肩を、ロシウは押さえていた。……右肩を。
「だって、そんなの少しだろ? だからって何かあったわけじゃないじゃん」
 ロシウは右手をシモンに預けたまま身体を少し横向けて、緑の農地に目を向けた。……俺を見ろよ。
「そんなの、一緒にいる俺がフォローすればいいだけのことじゃないか」
 いいえ、とロシウは言う。まるで迷わずに、伏した目にはおそらく農地だけを写して。
「そういうことでは、ないんです。一度きりのことなら、そうも思えた。けれどこれは、この先ずっと続くんです。それを知りながら、僕はグレンに乗り続けることは出来ません。だから」
「俺を見ろよ、ロシウ!」
 シモンはロシウの手を強く引っ張った。
 何かがロシウの口から飛び出す前に、聞かされる前に。その先に、いったい何があるというのだろう。言葉がなだめるように続くだけだろう。とうてい受け入れがたい言葉ばかりが。
 ロシウの左肩をシモンはにぎりしめる。身体を無理に自分に向かせて引き寄せた。
 たたらを踏む足下から砂の塊が落ちていく。つかんだ手首が痛かったのか、ロシウは一瞬こらえるように唇を引き結んだ。
「頼むからロシウ、俺を見てくれよ。そういうことは、俺を見て言ってくれよ。何でそういうことを急に言うんだよ? 狡いよ、突然」
 そう言いながら、今度はシモンがうつむいた。髪がロシウの胸に触れるのがわかる。砂埃に汚れたロシウの靴の先が目に入った。
 ロシウの顔を見ることがシモンは出来ない。見たらたぶん、もう何も言えなくなってしまう気がした。
 だって、とシモンは唇を噛みしめる。だってロシウはもう、決めてしまっているから。もうロシウが今までのように、グレンに乗ることはない。
「俺が」シモンはやっとのことで顔を上げた。「乗ってほしいって、言っても?」
 息が掛かりそうな距離で、ロシウが驚いたように目を見開く。こんなに近くにその目を見るのに。青味を帯びた瞳の色までわかるのに。
「このままでいてほしいって言ってもダメなの?」
「シモンさん」
 ロシウの口元が、ほころんだ。
 シモンの視界が揺れる。イヤだ。その先を聞きたくない。続くだろう笑顔はもう、見飽きた。そんなのは一度見れば充分だ。もう見たくなんか、ない。
(シモン、私は行くわ。)
 つかんでいたロシウの右手首を、シモンは離す。そのまま手を伸ばして、ぎりりと音がするほど、ロシウの背をにぎりしめて引き寄せる。
 まるでこのまま逃げられそうな気がした。逃げるってどこへ? どこか遠くへ。俺の手の届かない遠くへ。
「シモンさん!」
 両腕でぎゅうっと捕まえる。ロシウが腕の中でもがくのを感じる。髪が頬を差す。ロシウの耳も冷たい。
「離してください!」
「やだ。離さない」
 ロシウがグレンを降りるなんて、そんなことを考えているなんて、思いもしなかった。当然のように続くんだと思っていた。


君をさがして、明日の丘で Scene7 へ続く
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