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2009.05.31 (Sun)

君をさがして、明日の丘で Scene7 

『天元突破グレンラガン』

【More・・・】


 新しい仕組みが始まって、皆が一緒にいることはかえって少なくなった。誰もが自分の役職に追われるようになって、それでも何かあればガンメンを駆って鎮圧に行く日々。
 鎮圧するのは昔のような獣人の反旗だけじゃない。カミナシティからの命令に従わず、戦いを挑んでくる人々を押さえ込まざるを得ない時もある。
 前みたいに戦いに行って、ただ倒せばいいだけでは、もうなくなってきていた。
 叫ばれた声を持ち帰り、受け入れなければ戦いは終わらない。もちろんそれを背負うのはシモンひとりではない。ロシウやリーロン、キタンやダヤッカたち。
 抱えきれない物事を助け、共に抱えてくれる昔馴染み。
 それでも、最後に決めるのはシモンだった。
 それがシモンの新しい役目、『総司令シモン』としての。けれどシモンがグレンラガンに乗ることだけは変わらなかったから。
 そこにはいつもロシウがいた。グレンに乗って、昔と変わらずに「シモンさん」と呼んでくれていたから。
 でも、とシモンは抱き締める力を強くする。そう思っていたのは、俺だけだった。そういうことなの?
「シモンさん!」
「ロシウもそうやって、俺を置いて行くの?」
 ヨーコも、もういない。
 彼女が何を考えていたのか、それもシモンにはわからなかった。
 テッペリンが陥ちてから一年余り。次官補職を降りてそれからの数ヶ月。出て行くと言われたその時まで、ヨーコがいなくなることを、やはりシモンは考えもしていなかった。
 ヨーコは多くを語らず、出て行くことだけを決めていた。けれどシモンは今のように、それを止めることができないことがわかってしまった。
 別れを告げた笑顔がどんな言葉よりも雄弁に、決意を伝えていたから。
 こうして腕の中に抱えていると、ロシウの身体の厚みを胸に感じる。ロシウはさっきから、身体を離そうともがくのをやめていた。
 このままだったらいいのに。このままずっとくっついてしまえば離れていくことを思わなくていい。失うかも知れない。遠ざかるかも知れない。そんなことを考えなくてもきっと、いい。
「シモンさん」
「うん」
「……僕はいなくなったり、しません」
「うん」
 本当は、わかってる。そんなことが出来っこないのを知っている。
「だだグレンを降りる、それだけです」
 みんなみんな、変わらないでいることはできない。いくら望んでも叶えられない。ニアと過ごす時間が減るように。ヨーコが去ったように。ロシウがグレンを降りるように。みんなみんな、変わっていく。
「うん」
 シモンは頷いた。頷いて、そのまま腕を解く。ロシウの身体をそっと押しやって自身も一歩離れた。けれどまだ、顔を見ることは出来ない。
 その代わりのように、シモンは農地を見下ろした。陽射しはすっかり午後めいて、緑の円の中にさえ影が入りこんでいる。
 その時、スプリンクラーが一斉に動きだした。円い農地の中心から、勢い良く水が吹き上がった。しゅんしゅんとかすかに聞こえてくるのは飛び出す水が上げる唸り声。
 舞う水は高く、低く、まるで襞を作るように回転して乾いた農地を潤していく。降りそそぐ霧が光を跳ね返していくつもの虹の輪が浮き上がる。
 きらりきらと、緑が輝いた。
 そのまぶしさに目を細めながら、どうして、とシモンは思う。どうして気付かなかったんだろう。どうして気付けなかったんだろう。
 地下の水脈が見つかった時、シモンには地上へ掘り抜けることしか考えられなかった。その水をどうやって地上に引き、行き渡らせるかを考えたのはロシウだ。
 もうとっくに、ロシウは変わってしまっていたのに。
「シモンさん」
 すっと指が冷たさに包まれた。振り向くと、そこにロシウはいる。すぐ側に。シモンの隣に。
「僕はやっぱり、ここにシモンさんと来られて良かった。僕たちがやろうとして、始まりかけているこの場所を一緒に見に来られて、良かったと思うんです」
 ロシウは言って、少し恥ずかしそうに目を細めた。
 その目はついと動いて農地へと向けられる。シモンも指を取られたそのままに、同じように麓を見下ろした。
 砂漠の、岩場の、その真ん中。一面白茶けた景色の中に、ぽかりと切って落とされたように緑が浮かんでいる。
 まるでそれは夢みたいな景色だとシモンは思った。
「そうだね」
 ロシウの指を、シモンはやっとにぎり返した。まだその手は冷たかった。それでもロシウはシモンの手を取ってくれた。だったら俺も……変わらなきゃ行けないのかもしれない。
「俺も……、そう思う」
 ねえ、とシモンは呼びかける。俺はちゃんと笑えているかな?
「ロシウと一緒に、見に来られて良かった」
 変わっていくことが避けられない、その中で、変わらないことがあるといい。たとえロシウがグレンを降りて、シモンがひとりグレンラガンに乗ったとしても。
 こうしてロシウの手をにぎって、ロシウが手をにぎってくれて、指の感触を今感じているように。きっとこの先も、ずっと先も。
「これから……農地をもっと増やしていきます。砂漠を人の住む場所に変えていく。僕はね、シモンさん」
 もっと緑が見たいんです、とロシウは言った。
 ちらりと盗み見たロシウの横顔は、笑っていた。きっと心底、ロシウは嬉しいんだと、シモンは気付いた。
 何より農地拡大にロシウは力を入れていたから。農地が豊かになること、作物が実ること。
「だったら、次は何をすればいいのかな? ……本当、ロシウは俺に仕事させるの上手いよ」
「頑張ってくださいね。僕も、ずっとシモンさんを手伝いますから」
「手伝いはいらないなあ……」
「え?」
「だって」
 シモンはロシウを見た。
「一緒にやっていくんだろ、俺たち? 手伝うんじゃなくてさ」
 顔を上げたロシウの目が、一瞬潤むように開かれて、そして笑った。はい、とロシウは言った。
「はい、……シモンさん」
 翳り始めた光の中に、麓の風が吹き上がる。ゆらゆらとロシウの前髪を揺らめかす。
「シモンさん?」
 ロシウが不思議そうに首をかしげた。シモンはぎくりとして、慌てて目をそらせた。
「どうか、しましたか?」
「べ」
 何だか急にシモンは気恥ずかしくなる。気恥ずかしついでに払うように手を離した。
「別に!」
 言えるわけがない、とその場を離れた。
 まるでロシウが知らない人みたいに見えたなんて。見慣れたはずの目とか鼻とか口元とかを、初めて知ったみたいに見つめていたなんて。
「ちょっと、シモンさん? どうしたんですか?」
「いいの! もう、行くの!」
「シモンさん!」
 追いかけてくるロシウの声を背中で聞いて、シモンは足早に来た道を戻り、そして立ち止まった。すぐに続いたロシウも隣で足を止める。ふたりで、黙って仰向いた。
 夕陽が、グレンラガンを照らし出していた。
 ラガンと、グレンと、そのコックピットを開いたグレンラガン。ほの赤い光の中に浮き上がる、いくつものへこみや傷に見覚えがある。ふたりで乗ってきた。ふたりで戦ってきた。
「ロシウ」
 だからシモンはロシウに手を差し伸べた。
「帰ろう」
 はい、とロシウはシモンの手を取った。
 そう、帰るんだ。今、自分たちのいる場所へ。最後にもう一度だけ、グレンラガンに乗って。



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