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2007.09.24 (Mon)

壊れゆく楽園の砂時計 

                                       『天元突破グレンラガン』

【More・・・】



 さくさくと、足下で青い芝生が音を立てる。
 庭に並べられたいくつもの白いテーブルが春の陽射しを受けてほんのり輝く、その間を落ち着かない足取りで横切っていく。
 見上げると、庭の木を使った電線がぴんと張っている。昨日まで大勢で、それこそ皆で大騒ぎして張り巡らした豆電球。
 夕方になれば、きっと星のように皆の頭上できらめくはずだ。
 ロシウ、と声をかけられて足を止める。探すと、来客用のテントの中でキッドが手招いている。
「何で今頃、こんな所をうろついているんだ?」
 そのままにテントに向かうと、キッドと同じように手招くアイラックにそう笑われた。
「そうだよ」
 さもおかしそうに笑ったのはレイテ。いつもは結んでいる髪を下ろして、肩に掛けた蜂蜜色のストールが柔らかい。
「さっきから見てると、あっち行ったりこっち行ったりしちゃってさ」
 ロシウはマッケンが差し出してくれたシャンパングラスを受け取る。指に冷たかった。
「……何だか落ち着かなくて」
「そりゃそうだろうよ」
 うんうんとゾーシィが頷いて、そしてにやりと笑った。片方外されたタイが首でぶらぶらしている。
「あーんな、小さかったおチビさんが結婚だもんなあ?」
「花婿は来たか」「待たせるなんてけしからん」
「気が早いわねえ、あんたたちは」
 いつもよりも髪をなでつけたようなジョーガンとバリンボーに、リーロンが呆れたような声を出す。
「まだ時間があるでしょうが。ギミーはどうしたの?」
「ダリーの所に居るはずです」
「あんたも花嫁さんの側についててやればいいじゃない」
「さっきまで居ましたよ。でもキッチンの様子でも見て来てくれってダリーが言うから」
「……追い出されたわけね。じゃあ、あたしが様子見に行こうかしら」
「大丈夫ですよ。キノンもついてますし」
 言うと「ほほー」と、リーロンだけじゃない声がその場で上がる。
「彼女、今日は早めに来てくれて、いろいろ手伝ってくれているんですが」
 続けた言葉に、なぜかその場の皆がそろってため息をついた。
「なんですか?」
 いやいいわ、とリーロンが改めてため息をつく。「気にしなくていいわよ、あんたは」
「そういえば、シモンさんとニアさんは? まだですか?」
「あの夫婦はとっくに来ているわよ。あぁ、キッチン」
「え?」不吉な予感。
「キッチン、見に行った方がいいかもね。ヨーコも行ったけど。シモン、結構な食材を持ってきてたみたいだから」
「……なんで止めてくれなかったんですか?」
「だってロシウが許してくれたって言ってたもの。だったら、ねえ」
「簡単なものを少しだけって話だったので。やっぱり僕、キッチンに行って来ます!」
 早足でテントを出かかると、ちょうどダヤッカたちがやって来る所だった。
「遅くなってすまんなあ」
 いえ、とテントを示すと、名を呼ぶかわいい声が足下でする。アンネだ。ふわふわした水色のワンピース。
「いらっしゃい、アンネ」せがまれるまま抱き上げてやると、くすぐったそうに笑う。「今日は頼むね」「さっきまで大変だったのよ」
 苦笑するキヨウの手に戻すと、アンネは恥ずかしそうに母の首に抱きついた。
「ドレスの色がいや、別のがいいって大泣きして」
「泣きやんだのさっきだもんなー。この泣き虫アンネ」
 そうアンネのぷっくりした頬をつついて、キヤルは振り返る。「兄ちゃん、遅いよ!」
「うるせえ。さっさと行きやがって」
 キタンもスーツ姿だが、もう、少し着崩れている。テントに入ったアンネは、さっそくマッケンの子供達に向かって駆けていく。
「こんな格好、シモンの結婚式以来だよ」
 その後を追いながら、キタンは窮屈そうにカラーを直した。
「いいね、お前は。そういう格好似合っててよ。キノンは?」
「来てますよ。ダリーについててくれてます」
「そーかそーか」がっと、肩を掴まれる。「ロシウ、あんまり待たせてんじゃねえぞ?」
「キタンさん?」
「アンネだってもう5歳なんだからよ。あっという間に歳喰っちまう。……っても」
 言って、それからすぐにキタンは口ごもる。「まあ、急ぐこたあ、ないよな。うん。まあ、頼むよ」
 ばしばしと、肩を叩かれて。そうしてキタンはテントを見回した。
「ヨーコは? 先に出たから来てるはずだろ?」
「キッチンです。……そうだ、早く僕もキッチンに行かないと」
「どうした?」
「ニアさんがキッチンに」
「お前っ、なんでそう、ダリーの結婚式を危機にさらすか」
「なんだか、断り切れなくて」
「いいから早く行って来い」
 はい、とテントに背を向けて身体を返す---そこに、懐かしい人が立っていた。
 青みを帯びた髪の色はそのままに、不敵な目の色はそのままに。赤いマント、日焼けした肌。
 彼の口の端がつり上がる。手が伸びてきて、反射的に目を閉じた。
 予想した額に痛みはなく、ただ、ふわりと頭を撫でてくれる感触があった。



 ロシウは目を覚ました。泣いていた。ただ流れる涙に、夢だったんだと気が付いた。
 身動きすると、身体の下で椅子がきしみ声をあげる。両の袖口で順番に涙をぬぐった。自分でも子供じみた仕草だと思いながら。
 胸からついたため息は少し震えていた。顔を覆った指先の、その冷たさが熱を持ってしまった目蓋に心地よく感じられる。悲しくはなかった。ただ涙が流れていた。
 肘の下で書類が乾いた音をたてる。
 カミナシティを初めとする規模の大きな街、そうでない町、村、離島。それぞれに出ている月接近の余波による被害。その数字と化した悲鳴の上に、午後の陽射しが薄ぼんやりとした影を投げかけている。
 時計を見ると、午後はまだ始まったばかり。どうやら昼食をとって、そのままうたた寝をしていたようだった。
 そんなつもりはなかったのにな、ともう一度ため息を付く。夢を見て、その夢に泣くなんて。
 やっと涙は収まった。気を取り直して仕事に戻ろうと身体を起こした時、インターコムが鳴った。キノンです、と馴染みの声が流れ出す。
「申し訳ありませんが、至急の決裁を頂きたいものがありまして」
 どうしようか、とちょっとためらったのも束の間。至急、というなら仕方がない。「どうぞ」
 言うが早いが執務室のドアが開いて、書類挟みを胸にしたキノンが入ってくる。
「補佐官、先日もお話し」
 近付いてくる声が急に途切れて見上げると、キノンが絶句している。目が丸くなって、ぎゅっと紙挟みを抱き込んだ。「し」とその口が動く。
「失礼しますっ」
「え? あ、キノン?」
 そのまま止める暇なく執務室を出て行ってしまうキノンに、ロシウも席を立つ。なんだか誤解されてる気がする。
「キノン」
 幸い、あまり追いかけることもなかった。執務室から顔を出すと、すぐ横に、紙挟みを抱いたままのキノンが壁に寄りかかっている。
 声をかけると「はいっ」と、びっくりしたような声を出した。その様子がおかしくて、ロシウは少し笑った。
「ごめん。別に泣いてたわけじゃないんだ。決裁があるんだろう?」
「……いいんですか?」
 いいよ、とキノンの手から紙挟みを受け取った。そのまま部屋の中に戻ると、ついてくる気配がする。ロシウは歩きながら書類をめくり、目を通す。
「驚かせてすまない。ちょっと居眠りをして、夢を見ていたらしんだ」
「どんな夢ですか?」
「ダリーの結婚式の夢だよ。皆が祝いに来てくれてた」
 はい、と書類にサインをしてキノンに返す。そのまま机に寄りかかった。
 夢の細かいところは、もう思い出すのは難しかった。けれど思い出すだけで嬉しい。こうして紙挟みをまた胸に抱き、キノンが笑顔で聞いてくれるのも嬉しい。
「ウェディングドレス、綺麗だったでしょう」
「それが見られなかったんだよ、残念なことに。ああ、でも、夢の中の君は見ていたと思うよ。ダリーについててくれてたから」
「私が、ですか?」
「そう。だから君のドレス姿も僕は見られていない訳だ」
 やっぱり残念な夢だね、と笑うと、キノンも「そうですか」と笑った。心なしか頬に赤味がさして。
「……今頃、皆さん、どのあたりでしょうね」
 言われて、ロシウは執務室の窓を見上げる。今日も良く晴れている。超銀河ダイグレンを見送った、あの空のように。
「そうだね……」
 地球を出発した船からの連絡は、ない。
 連絡がないことを無事でいることとみなしていいのか、それとも連絡できないほど情勢が急なのか。
「僕はね」胸の奥にはまだ、夢の名残が残っている。「心配はそんなにしていないんだ。シモンさんや皆が、きっと何とかしてくれる」
 幸せな夢を見た。
 懐かしい人が現れて、皆が笑ってくれた夢。ロシウは彼の手が触れただろう場所を、少し触った。涙はもう出なかった。随分時間がたつというのに、からかうように名を呼ばれた声を覚えている。
 だから、と再びロシウはキノンに笑いかけた。
「皆無事に     帰ってくる気がするんだよ」

                                        終

テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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