*All archives  *Admin

--.--.-- (--)

スポンサーサイト 

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【編集】 |  --:-- |  スポンサー広告  | Top↑
2007.10.20 (Sat)

さようなら、と僕らは言った  Chapter1-3 

                                『天元突破グレンラガン』

【More・・・】

 

 螺旋王のドリルはロシウの右肩をかすめ、グレン自体を貫いた。
 布地を巻きこみ、肉を巻きこんで。
 グレンのコックピットに備えてあった道具でとりあえずの止血もした。傷口は正視しなかった。
 緊張の時が過ぎれば痛みは増したけれど、施された応急手当のお陰で血は止まっているように思えて……だから平気だった。
 皆といる時からしていた、時々くらりと頭の軸が浮く感じにはすぐに慣れた。
 慣れてしまえば待つことぐらい、何てことない。
「だって、大丈夫でっ……」
「この馬鹿」
 振りかけられた消毒液の痛みにロシウは絶句する。
 ぎゅっと目を閉じると、ひどく平坦な声が降った。
「今度、また『大丈夫』って言ってごらん。その口をきけなくしてやるから」
 返事をしようにもリーロンは傷口を丹念に洗うから、口を開く暇がない。
 うう、とただ唸るのがやっとだ。
 まったくもう、と呆れたリーロンのため息に、やっとロシウは目を開ける。
「これじゃあ縫うこともできないし。困ったわねえ。自然に肉が盛り上がるのを待つしかないわ。
そういえば腕、ちゃんと上がるの?」
「ああ、それは……っ」
「今は上げなくていいわよ。痛むのは当然でしょ、馬鹿ねえ」
 二度も言われた。
「本当に」 リーロンはぺちんと新しいシートを傷口の上に張り付ける。 「本当に、馬鹿な子だこと」「そんな……馬鹿馬鹿言わないで下さい」
「じゃあ、お間抜けさん?」
 同じだ。
 さすがにちょっとロシウは腹が立つ。
 けれど何かを言うより先に、リーロンはふいと椅子を立ってしまった。
 医薬品コンテナは黄色。しかし今リーロンが向かっているのはもっと出口に近い方、灰色のコンテナが積み重ねられている所だった。
 いつもは何をするにも饒舌なリーロンが、黙ってあちこちの灰色コンテナを開けては探し、開けては探ししている。
 その無言の背中を見ているうちに、うっすらとした腹立ちが立ち消えていく。変わりに急にしおしおと、胸が締めつけられるように切なくなった。
 右肩がまた、じくじくと痛み始める。
「……あった!」
 いくつめかのコンテナに取り組んでいたリーロンは、また新しい小さな箱を持ってきた。開けるとお椀をへしゃげたような物が入っていた。
 材質は柔らかいようだった。ぱっくんぱっくんへこむそれを右肩にあてがうと、肩自体をゆったり包み込んでくれる。
「ちょっと、押さえて」
 押さえるその上から、右肩と腕をきつく包帯でくるんでいく。
「ガンメンの部品カバーだけど、まあ、これで傷の保護にはなるでしょう。急ごしらえだけど、仕方ないわ。あんたもシモンと同じ。あまり動かそうとすると治りが遅くなるから、じっとしていること。いいわね?」
 わかりました、とロシウは答えたが、その声はなんだか喉につかえたように頼りなく出た。
 上手く出なかったのは、たぶん、包帯をぐるぐると巻かれているその間ずっと、ロシウがひとつの音を聞いていたから。
 さっきからの切なさの鳴る音だけ、それだけを。
 だからその続きだったのかもしれない。気のせいだったかもしれない。
 一瞬、見上げるリーロンの顔に影が差したような気がした。
「いいお返事だこと」
 けれどロシウがそれを見直す間もなく、リーロンは軽くロシウの頭に手を置いた。
「シモンもあんたみたいに素直なら、ニアに頼まなくても済むんだけどねえ。あの子は言って聞くような子じゃないから」
 そのままほわほわと頭を撫でられて、それでロシウはほっとする。
 張っていた背中から力が抜けたのが自分でもわかった。
 あれ、とロシウは内心首を傾げる。どうして僕は緊張、していたんだろう……?
「ということで、ロシウ」
 有無を言わせぬ感じできゅっとリーロンは、ロシウの額を指で押す。
「あんたはベッドで寝てること。出血も多いし、動き回るとぶっ倒れかねないわ。熱だって出てるんだし」
 そのまま簡易ベッドを指さされる。ダイグレンはなくなってしまったから、もちろん皆帰るべき部屋なんてない。
「少し一人で寝ててもらうけど、すぐに人をよこすわ」
「僕なら、だいいいい」
 最後まで言えなかったのは、びっと素早く伸びたリーロンの指が両方の頬を引っ張ったから。
 ひたひです、と言っても、リーロンは 「こーら」 と更にぎゅっと力を込めた指を緩めない。
「今度、大丈夫って言ったらこうしてやるって言ったでしょ。案外、学習能力のない子ねえ。
 ……大丈夫じゃないのよ、ロシウ。あんたは今、大丈夫なんかじゃないの」
 ぱっとリーロンは手を離した。そのまま頬を包まれる。
 指から漂う強い消毒液の臭いが、鼻をついた。
「我慢できることと、我慢しなきゃいけないことは違うのよ。あんたはまだちっこいんだから、もっと痛いって言っていいの。一人で寝るのが心細かったら、心細いよって言っていいの」
 びっくりした。
 何よりただびっくりして、それでロシウは口がきけなかった。
 こうして顔を温かな手をくるまれたことも、優しい声も言葉も、何もかもが初めてかけられたものだったから。
 だから     だからロシウはじっと見つめてくるリーロンから目をそらせた。そろそろとリーロンの指に、自分の指を重ねながら。
「平気です、僕は。一人で寝ることなんて慣れてるんです。村では、ずっと一人でしたから。だから」
 ロシウの手の下で、リーロンの指が動くのがわかった。
 そのまま恐る恐る見上げると、リーロンは薄く笑っていた。
 仕方のない子ねえ、と笑う。頬から指が離れていく。
「やっぱりお馬鹿さんね。子供は子供らしくしていた方がかわいいのに」
「……僕はかわいくなんてありませんよ」
「そうね。全然かわいくないわ。だから、もう寝なさい」
 再び、今度は前より強く、がしがしと頭を撫でられた。そのままベッドを指さされて、ロシウはおとなしく立ち上がった。
「じゃあ、早めに戻ってくるか、誰か人をよこすわね。服も持ってこなきゃならないし。それまでちゃんと寝てること。わかった?」
 やっぱり身体を横たえると楽だった。わかりました、とまた答えると、もう一度、見上げたリーロンの顔にさっきと同じような影が差したような気がロシウはした。
 けれど今度もまた、それが何かを確かめる前にリーロンの顔が視界から消えてしまう。顎まで上げられた毛布は埃の臭いがした。
「……リーロンさん」
 医療具を次々と鞄に詰めている、リーロンが振り返る。
 ロシウはちょっと、そこで迷った。何を言おうとしていたのか、少し見失う。けれど、
「ありがとう、ございます」
 言ってしまってから、なんだか違う気がロシウはする。確かにありがとう、そう言いたかったのは本当だけど。
 でも     何か。何か、もっと、
 リーロンはぎゅっと、鞄の肩ひもを揺すり上げた。そのまま近付いて、左肘で身を起こしていたロシウの胸を叩いて倒す。
「寝てなさいって、言ってるでしょ? 水くさい真似はなしにしてよ」
 じゃあね、とばちっと音が出るほどに片目をつぶって見せて、そしてリーロンは行ってしまう。
 その気配が完全になくなって一人きりになると、ロシウは長く息をついた。
 ほっとしたのか、リーロンの言うように寂しいからなのか。
 自分でもわからなくて、だからもう一度、ロシウはため息をついた。左手で握りこんだ傷口は熱を持っている。
「……痛い、かな……やっぱり」
 眠れるとは思えなかった。けれどこの状態では役に立てるとも思えなかった。
 ロシウは目を閉じた。
 言われたとおりに眠ろうとして……そして本当にそのまま、すとんと眠りに落ちてしまう。
 夢も見ないような、深く深く。
 今この時、地上奪還の英雄を求めて人々が尚やってきたことも、遂にニアにも守りきれずシモンが倒れたことも、あまりの皆のはしゃぎようにキタンが人々を怒鳴りつけたことも、掃討作戦が行われることになったことも。
 ロシウは何も知らず知らされず、ただ眠ることを許されて。


さようなら、と僕らは言った Chapter2-1 へ続く

幕間  カナリアは歌う Scene1 へ続く

テーマ : 同人小説 - ジャンル : 小説・文学

【編集】 |  17:23 |  Novels  | Top↑
 | BLOGTOP | 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。