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2007.11.18 (Sun)

さようなら、と僕らは言った  Chapter3-5 

                               『天元突破グレンラガン』

【More・・・】



 あれはほんの、ひと月前の出来事。
 たくさんのことがあった。激しい戦いがあって、新しい人々は来て、多くの人々が去って、めまぐるしく日々は過ぎ、毎日少しも変わらずに陽は暮れて、陽は昇って、お腹が減ればご飯を口につめこんで、汗が不快になれば水を浴びて、夜は眠りに落ちて、天気が良ければ汚れた服を洗濯して、文句を言う奴らに皮肉を効かして、腹立ちのままに足音高く甲板を歩いて、いつの間にか、たわいないことで笑い声をあげるようになった。
 二度と、笑うことなんて出来ないだろうと思った時もあったのに。
 ロシウは両手を握りしめた。
 ふと、痛かったのかギミーとダリーが見上げる気配がして、慌てて指を緩めた。そのまま手を離すと、ダリーは腕にしがみついてくる。見下ろした顔が不安そうに曇っているのが、ロシウは悲しい。
 ただゆっくりと腕を解くヨーコに、何も言う言葉が見つからない。いや……言葉は溢れているのに、それらが音を持たないのが悔しかった。
 一人で射撃場に籠もっていたことを知っている。強い硝煙の臭いがあの時のヨーコの香りだったことを覚えている。
 誰もが深く落ち込んだシモンに苛立ち、見捨てかけた時に、シモンが自分で立ち上がるのを待っていた数少ないひとり。
 でも、とロシウは息を吸い込む。---ヨーコさんも、傷ついていたんですよ。
 ロシウはもう一度、強く手を握りしめる。
「ヨーコ、」
 けれど先に名前を呼んだのは、シモンだった。ロシウの決意は唇に留まって、そのまま消えた。
「それでも、俺達はテッペリンに行く。危険でも何でも」
 ヨーコは何も言わなかった。ただ、穏やかに笑うシモンを見つめ返している。そう、シモンは穏やかに笑っている。まるで、子供をあやすように。
「もう、殺したくないよ。もちろん、殺されるのもヤだけど。殺されるのを見るのもイヤだ。だって、そんなことのために、俺達は戦ったの?」
「……復讐の、ためなんかじゃない」
 うん、とシモンは笑った。ちらりとニアを見て、そして小さく頷きあう。
「だから俺は、俺はさ、ヨーコ、戦いを終わらせたいんだ。もうイヤなんだよ。わかるだろう? さっき聞いたじゃないか、このまま放って置いたら、どんな風に獣人が死んでいくのか」
 つ、とヨーコは目を見開いた。そうした自分に驚いたように唇を噛みしめ、そして瞬いた瞳は惑いを見せて留まった。ロシウは視線を追い、その先に獣人がいるのを知った。今度は目をそらさず、じっとヨーコを見返す獣人が。
「俺達は、たくさん死ぬ奴らを見過ぎたよ。もうこれ以上、俺は見たくない。たとえそれが、獣人でも」
 シモンの声が消える頃。振り払うように、ヨーコが視線をそらせるのを見る。引き結ばれた唇が歪んでいた。いっそ泣き出してしまいたいように。
「そうね」
 けれどヨーコは笑った。軽く伸ばした指で前髪を絡めて跳ね上げる。一瞬隠れた手の下でどんなにその頬が震えていても、シモンに向き直ったヨーコは笑顔だった。
「私も、もう、誰かが死ぬのを見たくない。もう、……たくさんよ」
 終わらせましょう、とヨーコは言った。
「シモン。テッペリンに行くことで戦いが終わるなら」
 ああ、とシモンは頷いた。その視線はヨーコを離れ、その場を眺めわたす。
「戦いを、今度こそ本当に終わらせるんだ。このまま獣人を見捨てたら、人間を殺して封じこめて、なかったことにしようとした螺旋王と俺達は同じになる気がする。でもテッペリンに行くのは、螺旋王と同じになるのがイヤだから行くんじゃないよ。もう一度、テッペリンに行くのは、」
 シモンは一度、何かを探すように天井を見上げた。
「みんなと、俺と、アニキとで始めた喧嘩を、ちゃんと終わらせるためなんだと思う。だから行こう、今度はみんなで。テッペリンに」
 行こうぜ、と最初に言ったのは誰だったろう。おう、と拳をつき上げたのは誰だったろう。
「誰かに勝手にケリィつけられてたまるもんかよ」
 ぎりっと、ゾーシィの口の端で煙草がひねる。なあ、と片目をつぶるその横でマッケンが重々しく頷いた。
「そうッスよ。後から来た奴らに好きにさせるなんて」
「とーんでもねーよ。ここは一発ぶちかまそうぜ!」
「慌てるんじゃねえって。覚悟のしどころだろ、ここは」
 口々に言い合うテツカン達をよそに、キヨウとレイテも気合いを入れ直すように頷きあう。
「喧嘩はきっちり終わらせてこそ華があるってもんだからなあ」
 ダヤッカは太い笑みを浮かべて、キタンの背をひと叩きする。痛ってえなあ、と顔をしかめながらもキタンは 「シモン!」 と呼びかけた。
「俺達には俺達の終わらせ方があるってもんだろ?」
「よし、行くぞ!」 「行くぞ!」
「盛り上がってるところ悪いんだけど」
 リーロンが、やれやれと口を挟んだ。「みんながみんなテッペリンに行って、どうすんのよ?」
「あ」
 きれいにそろった声と、見合わせる顔。ねえ?と同意を求めるように振り返られて、ロシウは口を開く。
「そうですよ。テッペリンに行くとしても、全員が行く必要はないと思います。獣人を一カ所に集めるにしても、手伝ってもらうにしても、そのために何人かは残らないと」
「そりゃあ、そうか」
「そうだよなあ」
「おめえ、良く気がつくなあ」
「……当たり前の発想だと思いますけど……」
 う、とキタンが顔をしかめる。かわいくねえなあ、という呟きは聞こえなかったふりをして、ロシウは続けた。
「もうすぐ夜になります。もし獣人が夜に眠る、というのがテッペリンでも同じなら、これから出発するのがちょうどいいんじゃないでしょうか」
 示し合わせたように、皆が小さな小窓を見た。
 その向こうには切り取られた、藍を濃くした空がある。



「さようなら、と僕らは言った」 Chapter3-6   へ続く


 

テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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