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2007.09.09 (Sun)

揺るがない視線  Chapter5 

                                       『天元突破グレンラガン』

【More・・・】




 執務室でひとり、ロシウはモニターを付ける。時間だった。シモンのスピーチが始まる。
「……アンチスパイラルの当面の危機は去り……」
 シモンが自分の綴った言葉を並べ立てるのを、ぼんやりと眺めた。結局、草稿にあまり手を加えることもなく、スピーチは語られる。そこに興味を抱くことは、もはや難しかった。
「なお、ロシウ・アダイ前総司令は」 ぴくり、と震えた。 「私、シモンが総司令に復帰するに伴い、補佐官職に復帰し職務を全うしていくことになります……」
 さりげない一文だ。唯一、ロシウの手にならない文章。
 アークグレンが発進し、宇宙で地上を守るためにムガンらと戦闘を繰り広げたことを、シモンは語る。その戦いによって、落ちてくるはずの月がグレンラガンによって制御可能な巨大ガンメンであり、月周回軌道を回って月不在の影響を最小限に収めること。
 その間に、時空間に隠されていた本物の月をひっぱりだし、軌道上に配備すること。これによって地上の危機は去り、これからアンチスパイラルの本拠地を捜索し、一気に叩きつぶしていくこと……。
 ロシウは、たまらず机の上の書類を払いのけた。
 雪崩を打って落ちた書類は、ふたたび床の上を白く埋め尽くす。ロシウは机の一番上の引き出しを勢い良く引っ張り出す。硬い物がずれる音の上で、古びた本が     聖典が大きく揺れた。
「……僕はどう償えばいいのですか……」
 最善の選択をしたつもりだった。
 ロシウは奇跡を信じない。圧倒的な危機の前に、それは考えることを放棄することに他ならなかった。
 市街地が燃え上がり市民が暴動を起こした時、裁判が必要だと思った。シモンに下した判決も、市民を納得させるためには必要なものだった。月衝突を知ってアークグレンに市民を避難させた時も、たとえシモンたちが現れたとしても、人類を生き残らせる手段はあれしかなかったと今でも思っている。
 後悔も迷いも、あの時、アークグレンの発進命令を下した時に、月ガンメンを押しとどめていた時に、ロシウは捨てた。だから     その決断を後悔する資格が自分にはないことを、ロシウ自身が知っている。
 それなのに誰もロシウを責めない。シモンも、ヨーコも。お前はシモンを裏切り、地球上に残る人類総てを見捨てたのだと、誰もロシウを責めない。
 それどころか、裁きの機会も与えてくれず、欺瞞で覆い尽くそうとしている。誰もが何もなかったことにしようとしている。このまま、アンチスパイラルの攻撃が始まる前の関係に戻ろうと、言っている。それが優しさだとでもいうのか。
      今までみたいに俺を助けてくれればそれでいい。
「そんなのは……嘘だ」
 変わってしまった関係を、何もなかったことには戻せない。犯した罪を、初めから何もなかったことにして、このまま生きていくことはできない。できそうに、ない。
 ロシウは聖典をなぞり、手に取った。何度も開いた表紙をめくり、その中に書かれた文字を指先で追う。いつものように聖典は、何の声もロシウに聞かせてくれようとはしなかった。
 ロシウは聖典を引き出しに、短い銃身を持つ銃の上に戻し、ゆっくりと閉めた。
 端末を開く。端末は補佐官のパスワードを求めてくる。総司令権限をシモンに移した時、一緒に補佐官権限も返上した。けれど今、ゆっくりと打ち込むパスワードを呑み込み、端末は起動を始めている。
 その光を増す画面を見つめながら、ロシウは短く笑った。声は出なかった、ただ肩だけが苦しく上下した。知らず右手は、引き出しの取っ手を探る。
「まだだ……まだ、僕にはやるべきことが残っている」
 声に出さなければ、その誘惑に勝つことが出来ない気がした。取っ手を離したそのままの手で、ロシウはインターコムを叩く。
「キノン、ちょっと来てくれないか? 頼みたい資料があるんだ」
 つけっぱなしのモニターの中で、シモンが自信にあふれた笑みを浮かべていた。



                                         終




テーマ : 二次創作 - ジャンル : 小説・文学

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